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もめない相続には「相続設計」の発想が必要

金融・相続特集 ファイナンシャルプランナー浅井 秀一氏に聞く【第二部】相続特集 これから始める「相続対策」

相続増税によって課税対象者が広がり、会社員でも相続税と無縁ではいられなくなっている。残された家族を争族で不幸にしないためには、どんな対策が有効なのか、ストックアンドフロー代表取締役の浅井秀一氏に聞いた。


まず考えるべきは財産をどうしたいか

 自分に万が一のとき家族のもめごとを回避するには相続対策が必要だと言われるが、浅井秀一氏は「相続対策ではなく相続設計の発想が大切」と指摘する。

ストックアンドフロー ファイナンシャル プランナー(CFP)浅井 秀一氏
ストックアンドフロー ファイナンシャル プランナー(CFP)浅井 秀一氏

 それは、「自分の財産をどうしたいか」をまず明確にすることだ。一般的には、①とにかく子どもに残したい、②妻にたくさん残したい、③夫婦(自分)のために使いたい、のいずれかに当てはまるだろう。

 ③であれば、相続税対策は必要ない。②は、残された妻が子どもから大事にされるため考えたい方法だ。相続税だけを考えれば、妻の相続分を減らした方が有利になるケースが多いが、それでは妻がないがしろにされる可能性がある。妻が財産を持っていれば、子どもや孫から大事にされるというわけだ。遺言で意思表示をすればいいが、法定相続人には遺言でも侵すことのできない遺留分があるので注意したい。

 ①や②の場合には、遺産分割で争いが起きないように配慮が必要。そのためには遺言が有効だ。

「私の父は経営者だったこともありますが、毎年お正月に遺言を書き直していたようです」と浅井氏。遺言があれば法的にもめる余地がなくなるし、親の意思がはっきりしているので相続人が納得しやすいという効果もある。

相続税のかかる層がほぼ2倍になっている

 資産が多い場合は相続税対策も重要だ。2015年の相続増税以降、課税対象となるケースが増えているからだ。国税庁のデータによると、14年に亡くなった人のうち、相続税の課税対象となった人は4・42%だが、増税後の15年には7・99%、16年には8・10%まで上昇している(左ページ図参照)。資産家でなくても相続税とは無縁ではいられなくなっている。

※出所:国税庁および総務省の公表データから、(有)ストックアンドフロー作成
(注)相続税額は当年分の申告納税額ベース(還付額や、既往年分は含まれていない)。
※出所:国税庁および総務省の公表データから、(有)ストックアンドフロー作成
(注)相続税額は当年分の申告納税額ベース(還付額や、既往年分は含まれていない)。

 ただ、資産の多くを自宅が占める場合、小規模宅地等の特例を利用すれば、課税されないことも多い。この特例では、自宅の土地330㎡までの相続税評価額が8割減になる。仮に土地の評価額が1億円であっても2000万円に圧縮できるので、金融資産などを加えても基礎控除の範囲に収まる可能性が高い。

「問題は、申告しなければこの特例を利用できないことです」

 相続税の申告は、複雑で個人では難しい。税理士などに依頼するのが一般的だが、費用がかかる。そこで浅井氏が勧めるのは、申告しなくても非課税になる対策を講じておくこと。有効なのは生前贈与だ。それほどの資産額でなければ年間110万円の非課税枠を使ってコツコツ贈与をしていくのもいい。資産額が多ければ、相続の際に適用される最高税率を試算して、それより低い税率の範囲で贈与するのも効果的だ。たとえば、相続時の最高税率が30%になるなら、税率が20%の範囲内で済む金額で贈与をすれば差し引き10%の節税になるわけだ。

 有効活用していない土地がある場合には賃貸経営などで相続税評価額を下げることができる。とはいえ、立地によって収支や入居者のターゲットが変わるため、信頼できる専門家を選んで検討する必要がある。

子どもがいない場合には遺贈という方法も

 一方で子どもがおらず、財産を残す相手がいない場合には、遺贈という方法もある。財産を第三者に贈与する方法で、遺贈先は遺言で指定できる。

「相続人のいない人の資産は国庫に入りますが、遺贈すれば資産の使い道を自分で選択できます」

 相続設計では残された家族がスムーズに手続きができるように配慮しておくことも大切だ。たとえば、相続が発生すると、遺産分割協議が整うまで銀行預金を引き出すことができない。故人の葬儀費用でさえ誰かが立て替えておかなければならないのだ。その場合、銀行などが扱っている遺言代用信託を利用していれば、相続発生後すぐにお金を引き出すことができる。認知症への備えも必要だ。いざ認知症になってしまうと、選択肢が限られてしまう。その前に対策を講じておく必要がある。やはり専門家の活用を検討するのが安心だろう。