文春オンライン

「イラク日報」で判明した、自衛隊員がもっとも死に近づいた瞬間

現地での危険は、砲撃や銃弾ばかりではなかった

2018/08/10
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 撤収間際の2006年7月6日の日報では、181名の宿営地内役務者のうち、136名が再雇用を希望している旨がメモに書かれている(サマーワ宿営地は自衛隊撤収後、再建されたイラク軍に引き渡されている)。このことからも、現地の雇用状況に市ヶ谷でも注意を払っていたことがうかがえる。

 現地の雇用創出は自衛隊の派遣意義のひとつでもあり、地元に不満を鬱積させないためにも重要な施策だった。2006年に入る頃には撤収の雰囲気が濃厚になっていたが(撤収が表明されたのは6月20日)、少なくとも陸幕運用支援・情報部長は出来るだけ最後まで雇用を確保したかったようだ。

サマーワからの撤収作業を見送る自衛隊員 ©共同通信社

明らかになった事故の詳細

 さて、日報の内容が明らかになった後、メディアが伝えた内容の大半は、「戦闘」という表記の有無やその回数、宿営地や自衛隊車列への攻撃事案、あるいは自衛隊員に拳銃が向けられた事案(最初の公表以後に見つかった日報の内容で、朝日新聞サイトで公開された日報内には無い)等が中心であった。

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 しかし筆者は、日報内のメモに、「派遣期間中に自衛隊員の生命が一番危険に晒されたのは、この時を置いて他にはないのではないか」と思わざるを得ないものを見つけた。

 それは2006年6月26日に発生した軽装甲機動車の横転事故だ。事件当日の防衛庁サイトでは、次のように発表している。

イラク派遣陸自部隊のタリル飛行場近傍での事案について(20:30現在)

平成18年6月26日

 

 本日、以下の事案が発生しましたのでお知らせします。なお、詳細については、現地部隊において確認中であり、内容は変わり得ることをご理解ください。

1 日時:
 6月26日12:45(日本時間同日17:45)頃

2 場所:
 タリル飛行場近傍

3 概要:
 タリル飛行場からの人員輸送に向かっていた車両のうち、軽装甲機動車(LAV)1両が横転

4 被害:
 負傷者3名(確認中だが、3名とも意識ははっきりしている)、車両については自走不能

5 原因:
 確認中だが、IED(簡易爆弾)等によるものではなく、事故の可能性が高い

6 対応:
 多国籍軍ヘリにより負傷者をタリル飛行場内に搬送し、応急措置を実施。なお、車両は回収する予定

出典:http://www.mod.go.jp/j/press/news/2006/06/26a.html

「生命の心配はないということでございます」

 次に当時の防衛庁長官記者会見概要を見てみよう。

Q: 昨日、タリル空港付近で陸自の軽装甲機動車が横転する事故があったようですが、この事故のその後の状況と安全対策についてお聞かせ下さい。

A: 現地時間で26日12時45分、サマーワの東約100kmのタリル飛行場に向かっていた陸自の軽装甲機動車5人乗り1両が、同飛行場手前約10kmの地点で横転し、自衛官3名が負傷、車両は破損し、自力走行不能になる被害があったとの報告を昨夕受けました。怪我は3人とも、肩を骨折したり、手首を骨折したり、打撲をしたりということですが、生命の心配はないということでございます。重症の1人はバグダッドの米軍病院で治療を受けているということで、あとの2人はクウェートの同じく米軍病院で治療を受けているという状況でございます。(後略)

出典:額賀長官会見概要 2006年6月27日