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「イラク日報」で判明した、自衛隊員がもっとも死に近づいた瞬間

現地での危険は、砲撃や銃弾ばかりではなかった

2018/08/10

「肩や手首の骨折や打撲」とはかけ離れた印象

 これら発表や記者会見からは、それほど深刻な怪我ではないという印象を受ける。メディアも事故への関心は低いようで、会見ではこの後の質疑は北朝鮮問題に費やされている。また、日報公開後に日報の主要トピックスを掲載する新聞社が多かったが、2018年4月22日付けの中日新聞朝刊「陸自イラク日報詳報」では、「イラク派遣部隊の日報の主な内容」の中に、当該事故は含まれていないなど、本件の扱いは小さい。

 だが、公表された日報には、事故で負傷した隊員の状況が掲載されている。そこでは長官の言う「肩や手首の骨折や打撲」とはかけ離れた印象を持った。

2006年6月27日の日報より

 そして、6月27日の日報表紙にある書き込みには、事故時の状況が書かれている。それによれば、時速80~90kmで走行中、中央のくぼみを避けようとして横転、車外に2名が放り出されたとある。

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2006年6月27日の日報表紙に記されたメモ

 時速80~90kmと言えば、高速道並のスピードで、車外放り出しともなると、かなり深刻な事態に見える。さらに6月27日のバスラ日誌では、「当初、師団が把握していた状況は、意識不明2名、重症1名であった」とある。情報が錯綜していたのかもしれないが、「3名とも意識ははっきりしている」とした防衛庁の発表とは異なっている。

救急医療経験のある医師の見解は?

 素人目線で考えても仕方がないので、筆者の知人で大学病院での救急医療の経験のある医師に、前出の「負傷者の状況」のページだけ見せて、負傷の程度を聞いた。以下が回答である。

「一番上は挿管までされているし、結構重症。一番下も血胸になっているからそれなりに重症」

 その後、次のようなコメントを得た。

「それにしても、シートベルトをしてないような怪我の仕方だな」

 メモによれば、負傷隊員2名は車外に放り出されている。シートベルトをしていないような怪我という見解は、メモの内容と一致していた。念のために補足すると、事故を起こした軽装甲機動車は、天井ハッチが開放され機関銃座になっている。車体の窓は小さく、分厚い防弾ガラスがはめ込まれていることからも、周囲を警戒していた隊員が天井ハッチから飛び出たと思われる。

事故を起こした軽装甲機動車の同型車両 ©共同通信社