昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

佐久間 文子
2016/04/21

【著者は語る】芭蕉と同じ才能を持った(?)旅する怪人

『漂流怪人・きだみのる』 (嵐山光三郎 著)

source : 文藝春秋 2016年5月号

genre : エンタメ, 読書

嵐山光三郎氏

若き日に編集者として深くつきあった、「怪人」きだみのるを描いた。

「もう忘れられた人なのかと思ったけど本の反響がすごくて。直接会った人はとくに、強烈な印象が残るんですね」

 ファーブル『昆虫記』の翻訳者として、また、戦時中に出た『モロッコ紀行』の著者として知られる。何といってもその名を高からしめたのは、東京・恩方(おんがた)村の廃寺に暮らした経験をもとにした『気違い部落周游紀行』などのシリーズだろう。

 嵐山さん自身は、開高健によるインタビューを読んできだに惚れ込み、所属していた平凡社の雑誌「太陽」に、「小さな村から」という連載を依頼した。以後、濃密な行き来が始まる。

「インテリになったり百姓になったり、その時々で立場を変える面白さがあったね。ぜいたくな店に行きたいと言ったり、『開高を呼べ』と言ってみたり。旅で地方に行ったら誰に会えばいいかってことはすごくよくわかっていて、おれは芭蕉の本(『悪党芭蕉』)も書いてますが、そのあたりは芭蕉とおんなじだと思う。女性の心をつかむのも天才的だった」

 住所不定の作家は、原稿ができると編集部に電話をかけてきた。原稿料と引き換えに原稿を受け取ると、「ノミコウ」という名の宴会だ。きだに教わり、いまでも時々つくるという、スペアリブ、馬肉のタータル・ステーキ、きだみのるサラダなど、野趣あふれる豪快な料理のつくり方が、本では浅生ハルミンさんのイラスト入りで紹介されている。

「なんでいま、きだみのるなの? って聞かれるんだけど、自分でもそれは説明がつかない。自分自身が仕事で世界中を旅して、いろんなところで日本人に会って、きだみのるが言ってたコスモポリタンが出てきているなあ、と思ったことがひとつ。あとはやっぱり『ミミくん』のことがずっと気になっていたから」

 きだは、人妻との間に生まれた末娘を「ミミくん」と呼び、放浪生活の道連れにしていた。学校教育を受けるため、きだと離れて岩手県の学校教師に預けられる。その教師は三好京三の筆名で「子育てごっこ」という小説を書き直木賞を受賞するが、彼の養女になった「ミミくん」との間には確執が生じ、スキャンダルにもなった。

「きだみのるも三好京三も亡くなり、『ミミくん』も五十歳を超えて、もう大丈夫かな、と思った。こういうめちゃくちゃで面白い人がいたことが、自分でも懐かしく思えてきたんですね」

漂流怪人・きだみのる

嵐山 光三郎(著)

小学館
2016年2月16日 発売

購入する