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がん検診の「デメリット」――実はかなりの割合でがんが見逃されているという問題

そもそも「肺がん胸部X線検査」は意味があるのか

2018/08/21
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 今年1月に東京都内の河北健診クリニックで杉並区の肺がん検診(胸部X線撮影)を受けた40代の女性が、異常を見逃されて6月に肺がんで死亡していたことが7月17日に明らかになりました。

3度「異常なし」と判断されていた

 この女性は、同じクリニックで2014年と15年にも検診を受けていました。すでに14年の検診で影が見つかっており、1次判定で内科医が「要精密検査」としていましたが、2次判定で放射線科医が「乳頭が映っている」と判断。専門性が高いという理由で2次判定の意見が優先されてしまったそうです。

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 また、15年と今年1月にも同じ影が映っていましたが、「前年と変化がない」「影が薄くなっている」などの理由で「異常なし」と判断されてしまったそうです。

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「がんを早く見つければ安心」。そう思ったからこそ検診を受けたのではないでしょうか。それなのに、早く治療を受けるチャンスを3度も見逃す結果となり、この女性もご遺族もさぞ悔しい思いをしたことでしょう。

8人に1人以上、肺がんが見逃されている

 それにしても、こうしたがんの見逃しは、めずらしいことなのでしょうか。実際にはがんだったにもかかわらず、検診で「異常なし」と判定されてしまうことを、専門用語で「偽陰性」と言います。肺がん検診の場合、これがどれくらいあるのか調べてみました。

 国立がん研究センターが運営するホームページ「科学的根拠に基づくがん検診推進のページ」で、国の肺がん検診推奨の根拠となっている「有効性評価に基づく肺がん検診ガイドライン」を読むことができます。

 それによると、過去の臨床研究に基づいて算出された胸部X線検査の偽陰性率は、なんと「12~50%」とありました。つまり、実際には肺がんだったのに、検診で「異常なし」とされてしまう人が、およそ8人に1人~2人に1人もいるのです。「こんなに見逃しがあるなんて、知らなかった」という人も多いのではないでしょうか。

 ただし、この数字には今回のように「異常を見つけたのに見逃した」というケースだけでなく、肺がんだったけれど検診では「異常を見つけられなかった」というケースも含まれていると考えられます。今回のようなケースに限れば、もっと低い数字になるでしょう。それに、過去の研究に基づくデータなので、精度管理が進んだ現在ではもう少し低い数字かもしれません。