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「あめぞうリンク」は日本のインターネット文化の底流だ

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掲示板ユーザーだった「ネットアイドル」MICHIKOの取材で感じた「虚」と「実」

2018/08/12

[電子の森を歩く]ネットアイドル 現実感が希薄に(毎日新聞1999年5月7日、地方版/東京)

「MICHIKO(ミチコ)」と名乗る23歳の女性は、ネットの有名人だ。ホームページは公開から1年あまりで総アクセスが80万人以上を数え、ファンの男性らから受け取る電子メールは毎日100通以上にもなる。雑誌やテレビの取材も増え、最近も写真家、篠山紀信氏が撮影した彼女の写真が一般雑誌の巻頭グラビアを飾った。

「ネットアイドル」。彼女は、そう呼ばれている。しかし驚いたことに、実社会の彼女はごく平凡なフリーターで、カラオケ店店員だという。そのうえ最近まで、彼女は両親にも恋人にも自分が電子世界のアイドルであることを知らせていなかったという。

 私は電子メールで取材を申し込み、4月下旬、彼女と会った。

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 初めて見た実物のMICHIKOは、笑顔が魅力的な気さくな女性だった。

 東京の下町で生まれ、私立の女子中学、高校を経て短大を卒業した。電機会社に就職したが、「性に合わない」と2カ月で辞めた。カラオケ店で毎晩働き、月に20万円ほどの収入がある。家族は両親と大学生の妹、高校生の弟。数年前から付き合っている恋人もいる。

 ごく普通の若い女性の経歴に思えた。日本全国を探せば、おそらく何万、何十万人と同じような暮らしをしている女性がいるだろう。

 彼女がホームページを公開したのは、昨年3月だ。「アクセス数を増やしたい」と思い、バナナを食べるポーズや体の線を強調したセルフポートレートを掲載した。ネットの掲示板などでうわさが広まり、男たちが群がった。アクセスは急増し、雑誌やテレビが取材を申し込み、「ネットアイドル」へと押し上げられていった。

◇ ◇ ◇

 ネットと現実社会。アイドルとフリーター。MICHIKOは二つの世界に、どう折り合いをつけているのだろうか。

 昨年、彼女の個人情報がネットで暴かれてしまったことがあった。パソコン雑誌に掲載した自宅の写真から住所と本名を突き止められ、匿名掲示板に投稿された。それを見たのか、カメラを持った若い男が自宅前でずっと立っていたこともあった。電子メールなどで送られてくる嫌がらせは数知れない。

 だが彼女に恐れはないようだ。「どうせネットだし、彼らも私に面と向かって言えるわけじゃないから」。彼女は言った。

 その一方で、彼女は家族や恋人、勤務先の同僚たちには自分の「ネット人格」が知られるのを恐れていた。ホームページで写真を公開するのに、両親にばれないようにと自室にカギをかけ、こっそりセルフタイマーで撮影した。電車の中づりの雑誌広告に自分の写真が載った時は「勤め先の人たちにばれる」とあわてた。「ネットアイドル」であることが両親や恋人に知られたのは、ごく最近になってからだ。

 彼女と話していると、現実感が希薄になっていくようだった。本当の彼女は、ネット上のMICHIKOなのか、それともそこにいる若いカラオケ店店員なのか。私は、いま目の前で話している彼女の背中が突然割れ、MICHIKOが中から現れてくるのではないかという奇妙な幻想にとらわれた。そう言うと、彼女は「それ、本当かもしれませんよ」とほほえんだ。

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