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岸惠子が綴る「85歳の見栄とはったり」――2018上半期BEST5

肋骨を折った日にテレビの収録! しかし、悲劇はそれにとどまらず……

2018/08/22

2018年上半期、文春オンラインで反響の大きかった記事ベスト5を発表します。人生のレジェンド部門の第4位は、こちら!(初公開日:2018年6月17日)。

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 今年のお正月、友人に誘われて京都のお寺巡りをした時、もみ合うような人混みのなかで、強烈なB型インフルエンザのウイルスを頂戴しました。B型が終わってもA型に乗り継ぐなどというこの年の流行は免れたものの、この迷惑な頂戴ものは絶え間なく襲ってくる咳の連鎖が治まってくれません。そのさなかにも拘(かかわ)らず、次なる不運は1月22日の大雪でした。肋骨を2本折ってしまったのです。

「あの雪じゃしょうがないわね」と友人が同情の声。

「雪で滑ったんじゃないのよ」本当のことを言うにはちょっと勇気がいります。

お風呂場で咳でバランスを崩し……つるり!

岸惠子さん

 あの日、昨年出した小説、『愛のかたち』について『ゴロウ・デラックス』という番組の収録のため赤坂のTBSに行ったのです。寒い日でした。あと小1時間で迎えの車が来るという時間帯にも拘らず、お風呂で少し温まろうと思ってしまったのです。時間を気にしながらシャワー用の泡立つクリーム・ソープを全身に塗り、泡あわの体で泡あわの床に立ち上がろうと腰を上げた途端、激しい名残り咳に見舞われ、バランスが崩れた体が泡にからめとられて、

 つるり!

(きゃっ! 転んだらたいへん)こんなときの自慢は滑稽にすぎますが、わたしは元来秀逸な運動神経に恵まれ、瞬発反応の天才です。(ほんとうかどうかは本人の認識の問題デス)。で、転ばぬように、頭を打たないようにと、何かにつかまり、すってんころりは免れたものの、凄い勢いで左わき腹をバスタブに打ち付け、息もできない激痛が走って動けませんでした。1〜2分? だったのか、その場にストップ・モーションよろしく無様な姿で固まりました。

ドタキャンのできない性分

 収録は延期してもらった方がいいに決まっている。と思いながらわたしは約束の2時間前にドタキャンなんて芸当はできない性分なのです。

 迎えが来た時には準備万端整えて体を折りながらも、古びてひびだらけの大谷石の塀に寄りかかり、なぜか意味もなく車に向かってにっこりと照れ笑い。

「どうしたんですか?」と顔なじみの女性ドライバーがすぐに異常を察知して階段を駆け上がってくれました。彼女とお手伝いさんに支えられて、ヒーヒー言いながらもやっと車に乗ったのです。