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赤坂太郎
2016/11/10

一強安倍の敵は永田町の外にいる

米大統領選、新潟県知事選、衆院補選から見えた脅威の萌芽

source : 文藝春秋 2016年12月号

genre : ニュース, 政治

カット・所ゆきよし

「安倍一強」。永田町の風景はここ4年、この言葉に凝縮されてきた。

 10月も自民党総裁の任期延長、東京10区と福岡6区で行われた衆院補欠選挙の全勝と、首相・安倍晋三の栄耀栄華がなお続くと思わせる事象が相次いだ。だがおそらく、安倍を倒すのはこれまでのような党内の敵や野党ではなく、永田町の外にある。その萌芽は激戦だったアメリカ大統領選挙と、東京都知事・小池百合子の活躍が象徴する「異端児」選挙にみえる。

 まずは安倍一強を印象づけた自民党総裁の「3期9年」への任期延長だ。

「異論はありませんね」

 10月26日、党・政治制度改革実行本部の会合。本部長を務める党副総裁・高村正彦は、自らが示した「連続2期6年」から「3期9年」への任期延長案への反対がないことを確認した。議論を開始して約1カ月、この日の会合もわずか30分、党所属国会議員の約1割しか出席していなかった。2021年9月末まで安倍が総理・総裁であり続けることのできる道は、あっさりと開かれた。

 21年9月まで務めれば、第一次政権時代とあわせ、安倍は大叔父の元首相・佐藤栄作(在任7年8カ月)を超え、戦前の元首相・桂太郎(同7年10カ月)をも上回って憲政史上最長の政権を築くことになる。これほどの大問題が、首相周辺も「自民党は変わったな。昔なら大激論になったはずだが……」と拍子抜けするほど簡単に決まったのはなぜか。高村や自民党幹事長・二階俊博、政調会長・茂木敏充らが「安倍総理はこう思っているだろう」と先回りして動いたからだ。

 二階は7月の参院選後、幹事長になるや否や任期延長論をぶち上げ、官邸サイドに「党内はまとめるから」と伝えた。弁護士資格を持つ高村に本部長を依頼したのも二階だ。茂木は首相周辺の意向を忖度し、総裁任期の完全撤廃に動いてみせ、自らの忠誠ぶりをアピールした。この間に安倍が口出しした形跡はない。「全部、党に任せてある」。安倍は任期延長について、こう繰り返すばかりだった。

 衆院で初の小選挙区選挙が実施されて20年。目的だった「派閥の弊害除去」は完全に達成され、与党党首の力こそが絶大なものになった。「党内の権力争いが、自民党の活性化につながってきた伝統が揺らいだ」などの評は、党首に逆らえば公認されない「サラリーマン化」した自民党を理解していない。あの当時、小選挙区導入に反対していた当選1回の安倍が今、総理・総裁としてその権限をフルに使っているのは歴史の皮肉でもある。

安倍の稲田への不満

 幹部たちが任命権者の意向を先回りしようとするのは、任期延長に限らない。衆院解散・総選挙の時期もそうだ。

「皆、そのつもりでちゃんと準備はしますから」。10月6日夜、東京・銀座のステーキ店「銀座ひらやま」で、二階は安倍に水を向けた。副総理兼財務相・麻生太郎、国会対策委員長・竹下亘や首相秘書官・今井尚哉らが集まった席で、安倍は二階の「解散準備は整える」との言葉を笑いながら、黙って受け流した。二階はこの4日後、10月10日にも「選挙の風は吹いているか、吹いていないかと言われれば、もう吹き始めているというのが適当だ」と来年1月解散をあおってみせた。

 実は二階の胸中は疑念と不信に満ちている。「1月解散」は来年夏の東京都議会選を前に、集票マシンをフル回転させておきたい公明党・創価学会の希望でもあり、解散論の発端は公明党だったからだ。学会と官邸ですでに話がついているのか――。「総理は俺に何も言わない」。二階は周辺に、こんな不安を漏らしている。安倍の真意をつかめない二階は10月28日、今度は「私の勘では切迫したことはない」と早期解散に否定的な見方を示した。