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松井玲奈が直木賞作家・島本理生と語る『ファーストラブ』

直木賞受賞記念対談・読書の魅力を教えてくれた

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初めての作品は天体コーナーで見つけた『よだかの片想い』

松井 島本さんの作品に出会ったのは、4、5年前に『よだかの片想い』を読んだのが最初でした。ちょうどその頃、仕事が忙しくて読書から離れていたんですけど、たまたまヴィレッジヴァンガードの天体コーナーで『よだかの片想い』を見つけたんです。

島本 天体コーナーで!? あ、「よだかの星」繋がりで。

松井 天体が好きなのでそのコーナーを見ていたら、「ビッグバンとは」みたいな本の間に『よだかの片想い』がポンと置かれてあったんです。これはたぶん小説だろうと思って読んでみたら、すごく面白くて。翌日、本屋さんに行って、そこにある島本さんの本を全部買って帰りました。

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©石川啓次/文藝春秋

島本 ヴィレヴァンのお陰だったんですね。

松井 『よだかの片想い』は、恋愛の終わり方が、「幕を引く」ってこういうことなんだなと思うほど、スッと終わるんです。私がそれまで触れてきた恋愛ものの映画や小説は恋愛がいろいろと展開していくものばかりで、たった1本の電話でこんなふうに恋愛に幕を引けるのかと衝撃的でした。でも、それがとてもリアルで引き込まれたんです。

島本 片想いって、振られ続けてもその人を好きでい続けるという選択肢もあるので、どのタイミングで自分が引いて、諦めるのか、結局それが1番大きいと思うんです。だからこそ余計に、主人公が「ああ、もう駄目だ」と悟るタイミングが、あの小説のポイントになっているのかもしれません。

島本作品はジェットコースター

松井 島本さんの作品は、自分が経験したことのない恋愛や感情を伝えてくれるんです。『わたしたちは銀のフォークと薬を手にして』は、一人で台湾を旅行中、朝ごはんのために猛暑の中を並びながら読んでいたのですが、主人公の女性が、男性からある告白をされる前に「付き合えないんだ」と言われるところで感情移入しすぎて、サーッと血の気が引いて、急に寒くなってしまって。私は感情移入をしすぎてしまうのか、登場人物の感情を一緒に追体験してしまうので、島本さんの作品を読む時はいつも、まるでジェットコースターに乗っているような感じで、楽しみつつ、ヘトヘトになりながら読んでいます。――って、こんなふうに感想をお伝えすることって普段ないから、恥ずかしくなってしまいますね(笑)。

島本 松井さんから感想のメールをいただくことはあっても、こうやって面と向かって感想を聞かせてもらう機会って、これまでなかったですからね。最近、読者の方から「いつ相手の男が豹変するのかと思ってハラハラしながら読んだら、ハッピーエンドだったのでビックリしました」という感想が多くて、そこでハラハラしていただくのもどうかなって、ちょっと反省しています(笑)。『わたしたちは銀のフォークと薬を手にして』は、病気という乗り越えるのが難しい問題が出てくるので、あまり辛い話にしないようにしようとは考えていました。