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連載世界経済の革命児

「顧客第一」の完璧主義者はなぜ愛されないのか

ジェフ・ベゾス (アマゾン・ドット・コムCEO)

2016/10/04

source : 文藝春秋 2016年10月号

genre : ニュース, 経済, 国際

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ジェフ・ベゾス氏

 まもなく佳境を迎える米大統領選の情報をタイムリーに知りたいなら、ワシントン・ポスト紙のインターネット版ニューズレター「ザ・デイリー・202」をお勧めする。

「リーダー必読のモーニング・ブリーフィング」というサブタイトルの通り、知っておくべき情報が過不足なく入っている。写真や動画の質が高く、デザインも素晴らしい。ワシントン・ポストのクールさは群を抜く。それもそのはず、同紙のオーナーは、世界最大のインターネット小売企業、アマゾン・ドット・コムCEOのジェフ・ベゾスである。

 ベゾスは、二〇一三年に約二百五十億円でポスト紙を買い取った。その時は狙いが分からず「金持ちの道楽」「新聞社と野球チームを一緒にしている」と批判された。

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 しかし、ベゾスはネットに押されて衰退する名門新聞社を本気で立て直す気だったようだ。最近、米ウォール・ストリート・ジャーナルがこんなエピソードを紹介した。

 ある日、ベゾスはネット版ワシントン・ポストの利用者から一通のメールを受け取る。「スマートフォン・アプリのダウンロードが遅い」というクレームだった。ベゾスは担当者にたった一行のメールを打った。

「修正しろ」

 担当者のチームは大慌てでアプリを改良し、数日後「ダウンロードの時間を二秒にしました」と報告した。するとまたベゾスから短い返事が返っていた。

「千分の一秒台にできるはずだ」

 完璧主義者。合理主義の権化。ベゾスには様々な称号が与えられたが、その多くには若干の「敵意」が込められている。彼が生み出すビジネスモデルがあまりに破壊的だからだ。

 一九九四年に立ち上げたアマゾン・ドット・コムは、本を「本屋で買うもの」から「ネットで買うもの」に変えた。その結果、米国では大手の書店がいくつも潰れた。

 取り扱う商品はDVDから家電製品、日用品などあらゆる分野に広がり、すべての小売店を敵に回した。

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