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【新書の窓】空想が変えるもの

『闇(ダーク)ウェブ』『ゴジラとエヴァンゲリオン』『宇宙エレベーター』『「その日暮らし」の人類学』『革新自治体』

source : 文藝春秋 2016年10月号

genre : エンタメ, 読書

ネットの奥底には一般の検索エンジンでは表示されない“ダークウェブ”が存在する。セキュリティ集団スプラウト『闇(ダーク)ウェブ』(文春新書)は、闇ウェブで麻薬、個人情報、偽札、殺人請負などあらゆる違法商品・サービスが売買される実態、そして架空の市場がビットコインの普及で急速に拡大する現状を伝え、個人・企業に求められるセキュリティのあり方を説く。闇市場「シルクロード」摘発の経緯は、黒幕の正体、捜査官の汚職発覚などサスペンス映画顔負けの展開だ。

 長山靖生『ゴジラとエヴァンゲリオン』(新潮新書)は、五四年公開の特撮映画「ゴジラ」と九五年放映開始のアニメ「エヴァンゲリオン」の謎や濃密な関係性を解説する。「ゴジラ」が描いた核の恐怖や戦争の記憶、「エヴァ」が映し出す家族崩壊や終末論など、時代を表す制作側の意図を筆者は丁寧に読み解いていく。エヴァの庵野秀明が監督した「シン・ゴジラ」は、三・一一以降の日本で解放された空想を形にしていく“表現者の希望”なのかもしれない。

 ロケットも使わず、百万円で宇宙に行ける時代がくると論じるのは佐藤実『宇宙エレベーター』(祥伝社新書)だ。宇宙エレベーターとは、宇宙ステーションと赤道上の基地をケーブルで結び、人や物資を搭載したゴンドラ(クライマー)を昇降させる計画のこと。SFのような話だが、現在の技術の延長線上にあり夢物語ではない。本著は構想のひとつ「エドワーズモデル」を中心に、実現の可能性と問題点を指摘していく。冒頭で描かれる空想体験ツアーには心が躍った。

 小川さやか『「その日暮らし」の人類学』(光文社新書)は、日本人にありがちな「未来のために現在を犠牲にする生き方」とは真逆の人生を送る人々を描いていく。保存食を作らないアマゾンの狩猟採集民ピダハン、周囲に依存する生計多様化戦略を採るタンザニアの都市住民。人類学的視点から描かれた本書は、自信と余裕に満ちたまるで空想の存在のような彼らの姿を通じて、資本主義システムとは異なる文明の可能性を示してくれる。

 先の都知事選では改めて自治体のあり方を考えさせられたが、岡田一郎『革新自治体』(中公新書)は、東京都知事の美濃部亮吉、京都府知事の蜷川虎三など、戦後日本に現れた“革新政権”の躍進と衰退の歴史を検証していく。著者は当時を「社会党は共産党に勢力を蚕食されることを警戒し、両者は対立を深めていた」と振り返るが、現在の民進党と共産党の関係はどうか。理想と現実の格闘とも言える歴史が、貴重な教訓を伝える。(走)

闇ウェブ (文春新書)

セキュリティ集団スプラウト(著)

文藝春秋
2016年7月21日 発売

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ゴジラとエヴァンゲリオン (新潮新書)

長山 靖生(著)

新潮社
2016年7月14日 発売

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革新自治体 - 熱狂と挫折に何を学ぶか (中公新書)

岡田 一郎(著)

中央公論新社
2016年7月20日 発売

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