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梯 久美子
2016/12/22

猥雑にして繊細

『ブラック・ダリア』『OUT』『あんじゅう 三島屋変調百物語事続』

source : 文藝春秋 2017年1月号

genre : エンタメ, 読書

梯久美子氏

『ブラック・ダリア』は“アメリカ文学の狂犬”ジェイムズ・エルロイの出世作。これを皮切りに、暗黒のL.A.四部作と呼ばれる作品群(『ビッグ・ノーウェア』『L.A.コンフィデンシャル』『ホワイト・ジャズ』)が書かれる。最も評価が高いのは、映画化もされた『L.A.コンフィデンシャル』だが、個人的にはこの一作目が好きでたまらない。1947年にロサンゼルスで起きた女優志願の女性惨殺事件をモチーフに、事実とフィクションをミックスしたストーリー展開で、独自の世界を作り上げている(エルロイの母親も殺人事件の被害者で犯人は捕まっていない)。猥雑にして繊細、残酷だがセンチメンタル。登場人物たちのひりひりするような痛みが伝わってきて、殺人や暴力の描写はすさまじいが、読後感は意外に暗くない。

『OUT』を初めて読んだときの衝撃は今も忘れられない。暗黒のL.A.どころではない暗さと救いのなさ。センチメンタルな情緒を許さない乾いた残酷さ。だが、弁当工場の同僚が殺した夫の死体をバラバラにして捨てるという行為をきっかけに日常を逸脱し倫理を超えていくヒロインの中年女性には圧倒的な魅力がある。ラストに近づくにつれて胸が苦しくなるような共感を彼女に覚え、そんな自分に狼狽。これぞ小説の力である。読後はただ茫然自失。欧米のミステリーを超えた傑作だ。

 ミステリー小説は骨太なものが好みだが、時代小説に求めるものはまた別だ。『あんじゅう 三島屋変調百物語事続』に出会ったときは「こんな小説が読みたかった!」と思った。江戸は神田の袋物屋の姪・おちかが、訪問客の怪談を聞く連作ものの第二弾。怪異な出来事の謎が解かれていく過程で、人間の不可解さと愛おしさが浮かび上がる。人ならぬ者の存在がリアルかつ瑞々しく描かれるのも魅力的で、四編収録されているうちの「暗獣」(表題はここからとられている)の哀切なユーモアと優しさには、何度読んでも泣かされる。

OUT 上 (講談社文庫 き 32-3)

桐野 夏生(著)

講談社
2002年6月14日 発売

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あんじゅう 三島屋変調百物語事続 (角川文庫)

宮部 みゆき(著)

角川書店
2013年6月21日 発売

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