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アメリカに忠誠を誓わなかった日系人、「ノーノー・ボーイ」の真実

川井龍介が『NO-NO BOY 日系人強制収容と闘った父の記録』(川手晴雄 著)を読む

2018/08/27
『NO-NO BOY 日系人強制収容と闘った父の記録』(川手晴雄 著)

 親が生きている間には、親の人生などさして関心がなかったという人は多いのではないか。父親が日系アメリカ人2世で、戦時中は収容所にいたらしいことは知っていた著者もまた同じだった。それが父の死後見つかった古い日記などから、父が“ノーノー・ボーイ”だったことがわかり、戦時中の父や日系2世の歴史に興味を抱く。

 日米開戦後、日系人約12万人が収容された。アメリカ政府は、国家への忠誠を測ろうと彼らにいくつかの質問をする。これを拒否した者、あるいは忠誠を誓わなかった者などがノーノー・ボーイと呼ばれた。

 アメリカ生まれの父は子供のころは日本で教育を受け、15歳で単身アメリカに戻った“帰米2世”であり、アメリカ育ちの2世と比べれば日本への共感は強かった。しかし、それよりも強くアメリカの民主主義と個人主義を尊ぶがゆえに、国民を収容しその上忠誠まで誓えという理不尽さに憤り、登録を拒否し逮捕される。そして戦後は市民権を剥奪され日本へ送還される。時を経て市民権を自らの意志で回復させるが、アメリカに戻ることはなかったという複雑な半生を送っていた。

 アメリカへの愛憎を抱え二つの祖国を持つ父にとって、二つは表裏一体であり片方だけでは自己は成り立たない。それが日系アメリカ人のアイデンティティであることに著者は気づく。

 時に一方だけを取れと非情にも迫る国家の前で、自己の内の二面性に向かい合った時の父の苦悩は、日系文学の金字塔ジョン・オカダの『ノーノー・ボーイ』の主人公のそれに重なる。

 国家的な危機を理由に、民主的国家ですら人種的な偏見に基づき人権を踏みにじることを収容政策は見せた。のちにそれは過ちだと認められたが、今またその政策を是とする声すらトランプ政権の周辺にはあがっている。将来日本も移民の増加が予測されるなか、著者の父をはじめ日系人の歴史は日本社会への教訓にもなるだろう。

かわてはるお/1947年、広島県生まれ。立教大学卒、明星学園に教員として就職。退職後は大学非常勤講師を務める。2010年に自費出版した書『私の父はノーノーボーイだった』をもとに本書を刊行。

かわいりゅうすけ/毎日新聞記者を経て、フリージャーナリストに。訳書に『ノーノー・ボーイ』(ジョン・オカダ、旬報社)がある。

NO‐NO BOY 日系人強制収容と闘った父の記録

川手 晴雄(著)

KADOKAWA
2018年6月22日 発売

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