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【新書の窓】ゾッとするリアル

『情報機関を作る』『公明党』『リメイクの日本文学史』『下水道映画を探検する』『夫に死んでほしい妻たち』

source : 文藝春秋 2016年7月号

genre : エンタメ, 読書

主要国で情報機関を持たない国家は日本以外に存在しない――。元警視総監が内閣情報庁設置の必要性を説くのが吉野準『情報機関を作る』(文春新書)。冷戦下に対ソ防諜を担った警視庁公安部外事一課長や全国の公安部門を束ねる警察庁警備局長も歴任した著者が明かす「私を“リクルート”したスパイ」などエピソードが興味深い。日本の情報機関について「スパイ活動をするのか、しないのか――断固するのである」と断言し、極度のスパイ・アレルギーに陥っている日本人に警鐘を鳴らす。

 薬師寺克行『公明党』(中公新書)は朝日新聞政治部長などを歴任した著者が公明党の紆余曲折を克明に辿り、戦後政治への影響を分析する。バッシング本でも礼賛本でもない。いかにして強固な政治基盤を築いたのか、その足跡を淡々と綴る。対象との距離感は忘れず、学会の組織力、統率力にもメスを入れる。「政教分離を宣言して以降、一貫して政権与党となることを追求してきた」ユニークな政党の実像と課題が浮かび上がる。

 今野真二『リメイクの日本文学史』(平凡社新書)は、著者自身による改作をはじめ、外国小説の翻案や子供向けのリライト、時局に応じた変更など、文学の領域では様々な形でリメイクが行われてきた実態を解説する。教科書で取り上げられる「羅生門」のラストは初出時から芥川龍之介が書き改めていた事実など、さまざまなケースを紹介し、作品の“書き換えを促す力”の不思議さに驚かされる。

 忠田友幸『下水道映画を探検する』(星海社新書)は、下水道が登場する映画ばかりを批評している一冊。下水道業界誌の連載をまとめた本書は、専門用語を解説しながら五十九作品の名作・B級映画を紹介している。著者が下水道映画の最高峰と語るのは『第三の男』。一方で、事実誤認や詳細な調査がなされていない『ぼくらの七日間戦争』『川の光』の下水道シーンについては下水道のプロとして厳しく批判する。

 小林美希『夫に死んでほしい妻たち』(朝日新書)は、ジャーナリストの著者が子育て問題の取材中、妻が夫に対して「『死ねばいいのに』と思う瞬間がある」と口を揃えることに気づいたことからスタート。愛情を欠いた夫の無神経な言動に傷つき、憎悪や復讐心を募らせていく妻たちの生々しい描写に、世の男性は誰もがゾッとさせられるだろう。家事や子育てを夫婦で分担できる労働環境こそ必要だという著者の指摘は、男女の違いを超えて首肯できる。(川)

情報機関を作る 国際テロから日本を守れ ((文春新書))

吉野 準(著)

文藝春秋
2016年4月20日 発売

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公明党 - 創価学会と50年の軌跡 (中公新書)

薬師寺 克行(著)

中央公論新社
2016年4月19日 発売

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下水道映画を探検する (星海社新書)

忠田 友幸(著)

講談社
2016年4月26日 発売

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夫に死んでほしい妻たち (朝日新書)

小林 美希(著)

朝日新聞出版
2016年4月13日 発売

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