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赤字だったバス会社が、なぜ埼玉県川越市を「シャッター街」から観光地にできたのか

イーグルバス谷島賢社長インタビュー#1

2018/08/27
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町づくりでは「人の移動」がカギ

 国土交通省の調査によれば、2016年度の一般乗合(路線)バス事業者において、246社のうち約6割が赤字、大都市部を除いた地方に限ると8割以上が赤字である。事業者の経常収支率は、都市部で103.1%、その他地域で87.4%、全体では96.5%だ。また過去、毎年1500~2000kmの路線が廃止され、2007年度以降1万2000km弱が廃止された。

国土交通省「平成28年度 乗合バス事業の収支状況について」より

 大都市圏といえども安泰ではない。川越市は、歴史的な町並みが残り、いまでは「小江戸」として外国人も殺到する観光地だが、中心の蔵造りの町並みもかつてはシャッター街だった。

「1995年に川越の観光地を回る小江戸巡回バスを走らせたときには、まだまだシャッター街で、バスに乗る人も数人という状況でした。その後、町の人たちと協力しながら観光客を増やしてきました」と谷島社長。

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 縁むすび風鈴がずらりとぶら下がった風景がインスタ映えすると人気の川越氷川神社は、毎月8日と第4土曜日の朝8時8分から良縁祈願祭を実施、次第に全国から女性が集まるようになった。

川越氷川神社の風鈴の回廊 ©時事通信社

 しかし、駅から神社まで遠く、観光客は不便を感じていた。それを人づてで聞いた谷島社長は、こういうときこそバスの出番だと即座に臨時バスの運行を決断。たくさんの風鈴が奉納される夏の期間に走らせると、さらに観光客が集まるようになり、神社の宮司も喜んだという。

「町づくりでは人の移動がカギを握る。私たち交通事業者は地元とタイアップして、臨機応変に対応することが大切なんです」

小江戸巡回バス(バリアフリー車両) ©2018 EAGLE BUS CO., LTD

廃止予定の路線バスを敢えて引き継いだ

 イーグルバスが路線バス事業に参入したのが2006年のこと。大手バス会社が運行していた川越市に隣接する日高市、飯能市、ときがわ町、東秩父村などを通る3本のバス路線を廃止することを決めたため、谷島社長はそれを引き継いだ。

「廃止すれば、陸の孤島になる地域も出てくるので、社会的使命だと思って3路線を引き受けたのです。実は他のバス事業が黒字なので、何とかできるだろうと楽観的に考えていたのですが、路線バス事業は全くビジネスモデルが違うことを痛感させられました」

 その後、2年間、谷島社長はコスト削減などに取り組んだが、赤字を解消できなかった。路線バスは乗客数にかかわらず、365日、朝から晩まで運行しなければならないので、構造的に赤字になりやすい。

 そこで、谷島社長はまず運行状況を「見える化」しようと考えた。それまでは、いったん車庫を出ると、乗客数の変化や遅延状況などを誰も把握していなかったからだ。