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野口 悠紀雄
2016/05/12

日本人の陥ったサイロ

『サイロ・エフェクト』『シャープ崩壊』『東芝 不正会計』ほか

source : 文藝春秋 2016年6月号

genre : エンタメ, 読書

 

一九八〇年代の日本の製造業は世界を制覇した。しかし、いまはシャープが鴻海に買収されるような時代だ。なぜこうした変化が起きたのか?

 ジリアン・テットは、『サイロ・エフェクト』の中で、組織が縦割りのセクションに分かれてしまう現象が起きているという。九九年にソニーが三つの全く異なるデジタルウォークマンを発表したのが、その例だ。かつては創造力に溢れていたソニーの技術者たちは、際限のない縄張り争いに巻き込まれ、協力する意思や能力を失っていった。

 サイロに陥らなかった例としてFacebookがある。急成長した同社は、二〇〇八年にコンピュータ技術者が百五十名を超えた。最適な社会集団の規模は百五十人という理論がある。そこで、新入社員研修プログラムを取り入れ、内向きの硬直的な集団になるのを防ぐため、非公式な社会的絆を作ろうとしている。

『シャープ崩壊』は、経営者のリーダーシップの欠如がシャープの崩壊をもたらしたという。経営危機に陥った後に内紛が激化し、効果的な打開策を打ち出せず、傷口が広がった。

 東芝は、半導体と原子力に巨額投資を行ったが、リーマンショックで半導体事業が、福島原発事故で原子力事業が、それぞれ反転した。そうした中で歴代社長が過剰な利益を部下に求めたのが、不正会計処理をもたらしたと、『東芝 不正会計』は指摘する。

 ところで、かつては日本企業が世界の技術をリードしていたのである。『インテル』は、IT革命を支えたマイクロプロセッサの開発過程を描いている。日本のメーカーが関わっていたことが分かる。

『シンギュラリティ』は、人工知能とニューロテクノロジによって、我々が理解しているような人類のあり方が終わりを告げるほどの劇的な変化が起きるという。まず、人間レベルの人工知能を作る。それはいつか実現される。そこから超知能への移行は不可避的に起こる。多くの人は仕事を失うかもしれないが、しかし豊かに暮らす。 

『ロボットの脅威』は、人間にしかできないと思われていた高度な知的作業に人工知能が登場していることを、多くの実例で示す。人工知能エンジン、クイルは、三十秒ごとに新しいニュース記事を一本配信する。ユリイカは、ほんの数時間かけただけで、振り子の運動を説明する物理法則を導き出した。ただし本書は、こうした技術進歩が社会を豊かにするのでなく、大規模な企業との不平等をもたらすとしている。

 人工知能を支えるのはディープラーニングという技術であり、これはビッグデータでコンピューターが自動学習する仕組みだ。しかしそうしたデータを利用できるのは、アップル、Google、Facebookなどごくわずかのアメリカの企業でしかない。では日本企業の出番はどこにある? 『世界を破綻させた経済学者たち』は、サミュエルソンやフリードマンなどの経済学者達の理論が、アメリカの金融危機を招いたとする。『ドル消滅』は、世界が一九七〇年代のような経済危機に陥る危険があると警告する。

『中国経済はどこまで崩壊するのか』は、中国のバブルはすでに崩壊しており、その後遺症で経済が減速しているとする。ただ、「中所得国の罠」による成長率急減などの長期的な問題の方が重要であるとする。対外開放路線をとれば、五%程度の名目経済成長率を実現できる。最悪のシナリオは、国民の不満をそらすため対外的強硬姿勢をとることだ。

『中国4.0』によれば、平和的に台頭した中国は、二〇〇〇年頃から対外強硬路線を取るようになった。中国は、南シナ海の領有権を放棄し、空母の建設をやめるべきだという。「シーパワーと海洋パワーは違う」「大国は小国を倒せない」など、興味ある命題が述べられている。日本にとっての最適な戦略は、受動的な反応に終始することだとする。

01.『サイロ・エフェクト 高度専門化社会の罠』 ジリアン・テット 土方奈美訳 文藝春秋 1660円+税

サイロ・エフェクト 高度専門化社会の罠

ジリアン テット(著),土方 奈美(翻訳)

文藝春秋
2016年2月24日 発売

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02.『シャープ崩壊 名門企業を壊したのは誰か』 日本経済新聞社編 日本経済新聞出版社 1600円+税

シャープ崩壊 ―名門企業を壊したのは誰か

(著)

日本経済新聞出版社
2016年2月18日 発売

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03.『東芝 不正会計 底なしの闇』 今沢真 毎日新聞出版 1000円+税

東芝 不正会計 底なしの闇

今沢 真(著)

毎日新聞出版
2016年1月30日 発売

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04.『インテル 世界で最も重要な会社の産業史』 マイケル・マローン 土方奈美訳 文藝春秋 2100円+税

インテル 世界で最も重要な会社の産業史

マイケル マローン(著),土方 奈美(翻訳)

文藝春秋
2015年9月12日 発売

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05.『シンギュラリティ 人工知能から超知能へ』 マレー・シャナハン ドミニク・チェン監訳 ヨーズン・チェン、パトリック・チェン訳 NTT出版 2400円+税

シンギュラリティ:人工知能から超知能へ

マレー・シャナハン(著),ドミニク・チェン(翻訳)

エヌティティ出版
2016年1月29日 発売

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06.『ロボットの脅威 人の仕事がなくなる日』 マーティン・フォード 松本剛史訳 日本経済新聞出版社 2400円+税

ロボットの脅威 ―人の仕事がなくなる日

マーティン・フォード(著),松本 剛史(翻訳)

日本経済新聞出版社
2015年10月22日 発売

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07.『世界を破綻させた経済学者たち 許されざる七つの大罪』 ジェフ・マドリック 池村千秋訳 早川書房 2100円+税

世界を破綻させた経済学者たち:許されざる七つの大罪

ジェフ マドリック(著),池村 千秋(翻訳)

早川書房
2015年8月21日 発売

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08.『ドル消滅 国際通貨制度の崩壊は始まっている!』 ジェームズ・リカーズ 藤井清美訳 朝日新聞出版 2500円+税

ドル消滅 国際通貨制度の崩壊は始まっている!

ジェームズ・リカーズ(著),藤井清美(翻訳)

朝日新聞出版
2015年6月5日 発売

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09.『中国経済はどこまで崩壊するのか』 安達誠司 PHP新書 760円+税

中国経済はどこまで崩壊するのか (PHP新書)

安達 誠司(著)

PHP研究所
2016年3月16日 発売

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10.『中国4.0 暴発する中華帝国』 エドワード・ルトワック 奥山真司訳 文春新書 780円+税

中国4.0 暴発する中華帝国 ((文春新書))

エドワード ルトワック(著),奥山真司(翻訳)

文藝春秋
2016年3月18日 発売

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