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「私どもも大変驚いております」 北朝鮮で拘束された男性の“お仕事”

 滋賀県出身の映像クリエイターで、30代の日本人男性S氏が北朝鮮で拘束されたのは8月10日のこと。それから2週間ほどが経過した8月26日の夜、北朝鮮の国営「朝鮮中央通信」がS氏の国外追放を決めたと公表した(8月28日に日本帰国)。

「拘束されたのは北朝鮮西部の南浦という港湾都市。中国系の旅行会社のツアーを利用して入国したとされており、S氏には複数回、北朝鮮への渡航歴があるという情報もあります」(全国紙記者)

 南浦には海軍造船所などの軍事施設があり、S氏はそれらを撮影したためにスパイ容疑で拘束されたという。当初は公安スパイ説やお騒がせなユーチューバー説など様々な憶測が飛び交った。

 S氏のホームページなどを辿ると、映像クリエイターとして、アイヌの伝統音楽を取り入れた楽曲や映像作品を制作する音楽ユニットと活動していたことがわかる。普段は江戸川区の自宅と都内の仕事場を行き来していたという。

「S氏が参加していたのは、『I』という音楽ユニットでゲーム音楽などのクリエイターとアイヌ民族に自身のルーツを持つ女性ボーカルのグループです。今年初めの全国ツアーにもS氏は参加していました。S氏はIと2012年頃から活動を共にしているそうです」(音楽関係者)

 Iのメンバーに聞いた。

「私どもも大変驚いております。ここ最近は連絡を取り合っておらず、渡航についても全く知りませんでした」

 Iのユニット名の由来は、十勝地方のアイヌ語で「稲光が光る」という意味。作品にもアイヌ文化が色濃く反映されている。S氏が制作に携わったミュージックビデオにもアイヌの伝統衣装に身を包んだキャラクターが登場する。

S氏が映像を担当したIの音楽ビデオ(YouTubeより)

「S氏がどのような思想信条を持ち、何の目的で北へ渡航したのかは、いまだ判然としていません。北朝鮮当局は、S氏が日本政府とは無関係な一般の観光客であること、政治的な背景がないことを確認し、国外追放決定に至ったようです」(前出・記者)

 ポンペオ米国務長官が訪朝を急遽中止するなど北を巡る情勢は風雲急を告げる。安倍晋三総理は金正恩委員長との会談に意欲を示しているが、このタイミングでの邦人解放が、北の交渉カードとして使われる可能性が懸念される。