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【新書の窓】本質を問い直す

『安保論争』『元老』『イレズミと日本人』『補欠廃止論』『ジブリの仲間たち』

source : 文藝春秋 2016年9月号

genre : エンタメ, 読書

細谷雄一『安保論争』(ちくま新書)は、朝日新聞の「数の力で押し切る政治」と題した社説や「国民的論議の必要性」を訴える記事の紹介から始まる。今年施行の安保関連法に対する論説かと思わせながら、実は九二年の「PKO協力法に関するもの」と種を明かし、激動の世界情勢後も変わらない「平和を叫ぶ人々」の思考を批判していく。安保法制は「立憲主義の終わりでもなければ、平和主義の終わりでもない」という立場に立った、気鋭の学者による論争的な快著だ。

 伊藤之雄『元老』(中公新書)は、伊藤博文ら八人の元老を軸に近代日本政治の軌跡と構造を追う骨太の歴史書。一八九〇年代以降、天皇の補佐、戦争、条約改正、首相選出などを取り仕切ったのが、明治憲法に規定されない非公式な存在である元老だった。本書で特に存在感を放つのが、政党政治を巡って批判を浴びながらも絶大な権力を握った山県有朋と、軍部が台頭する中で戦争回避に尽力した“最後の元老”西園寺公望。明治の政治とは、元老による政治だったのだ。

 イレズミに対しては一般的に「ヤクザ」など否定的連想が先行するが、山本芳美『イレズミと日本人』(平凡社新書)は新しい視点を提供してくれる。かつてアイヌ民族や沖縄の女性が「より美しくなる」ためにイレズミの習慣を持っていたこと、明治時代に欧州の王族が日本で「和彫り」をするために立ち寄ったこと、そして近年は日本の伝統的刺青の世界的評価が高いことには驚かされた。タトゥーをした訪日外国人が、温泉などから締め出される現状を再考させられる。

 二〇二〇年東京五輪を前に、セルジオ越後『補欠廃止論』(ポプラ新書)は日本スポーツ界に警鐘を鳴らす。サッカー解説者として知られる著者は、世界に例のない日本の部活動の補欠制度こそが、スポーツ発展の妨げになっていると断言。試合への出場機会がない補欠は「控え選手」でさえなく、チームを応援するだけの差別であると主張する。部活動を巡る近年の議論に一石を投じる一冊だ。

 観客数が減る中で、作品をどう世に伝え、映画館に足を運んでもらうか。鈴木敏夫『ジブリの仲間たち』(新潮新書)は、スタジオジブリの名物プロデューサーがこの難題にどう向かい合ってきたのかを描いた、三十年に及ぶ格闘の軌跡だ。「宣伝の本質は、歩いてまわって仲間を一人ひとり増やしていく作業」というジブリ流がどう誕生し、成功を収めてきたのか。そして宮崎駿、高畑勲というジブリの二大巨匠が著者に示した、宣伝に対する複雑な思いが読みどころだ。(走)

安保論争 (ちくま新書)

細谷 雄一(著)

筑摩書房
2016年7月5日 発売

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元老―近代日本の真の指導者たち (中公新書)

伊藤 之雄(著)

中央公論新社
2016年6月21日 発売

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イレズミと日本人 (平凡社新書)

山本 芳美(著)

平凡社
2016年6月17日 発売

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(096)補欠廃止論 (ポプラ新書)

セルジオ 越後(著)

ポプラ社
2016年6月8日 発売

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ジブリの仲間たち (新潮新書)

鈴木 敏夫(著)

新潮社
2016年6月16日 発売

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