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連載高野秀行のヘンな食べもの

「糞」じゃなくて「××」のスープだった!!――高野秀行のヘンな食べもの〈最終回〉

2018/09/04

※前回「グルメなタイ系民族は『ヤギの糞のスープ』を食べる!?」より続く

イラスト 小幡彩貴

 謎の「ヤギの糞のスープ」こと「ヤンビー」の作り方を見に行った話の続き。

 翌日の午後、その店にベーレイの調理を見に行った。いまだに「糞」が何を指すのか不明だったが、店主である秋(チウ)さんによれば「胃の中のもの」だという。

 厨房のポリバケツに入ったそれは、黒っぽい緑色をしていて、本当に草食動物が消化している最中の草という感じ。ということは……羊の糞ではなくゲロだったのか!

 バケツの中に手をつっこんですくうと、草の繊維がひっかかって浮かび上がる。このどろどろした液体を丁寧に手でぎゅうぎゅう絞りながら、ザルで濾過する。秋さんは青臭い匂いがうっすら薫る濾過された液体をそのまま中華鍋にあけると、強火でガンガン熱した。驚いたことに、この黒緑の液体には一滴も水を加えない。ただ、ごく少量のラオカオ(焼酎)を入れただけだ。

羊の胃液汁(濾過前)
胃液汁を濾過する
濾過した胃液汁を鍋へあける

 十分煮えると、火を止め、液を別の鍋に移したが、このとき何ともいえない異臭が鼻をついた。青臭いだけでない、動物的な何か、あるいは排泄物的な何かが蒸気と一緒に立ち上ってくるのだ。

 ここから具材と調味料を投入しはじめる。まず、ニンニク、生姜、シシトウ、赤トウガラシを入れ、次に内臓。まず、細切りにしてあった小腸を先に炒めてから、残りの部位(胃、レバーなど)を炒め、火が通ると一緒に黒緑液に入れる。

内臓を炒める

 続いて味つけ。塩、味精(中国のうま味調味料)、鶏ガラだし。さらにはすでに細かく刻んでおいたニラ、ネギ、油麦菜(固めの青菜)、パクチーを投入。一、二回鍋をかき混ぜて、最後に花椒、それにトン語で「マ・ノウ」と呼ばれる乾燥ハーブを投入すると、火を止めた。これで完成らしい。下拵(したごしら)えをしてあったとはいえ、たった十二分の早業だった。