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「医師不足」の日本に先進国一病院数がある不思議

2018/09/04

病院が少ないのに医療の質を維持できる理由

 医療機関数や病床数が少ないからといって、欧米諸国が医療崩壊の危機にあるとは聞きません。なぜ、少ない医療機関で一定の質の医療を維持することができているのでしょうか。それは、医療機関を集約化しているからです。

 たとえばドイツでは、国が病院の数を厳しく管理しているそうです。心臓外科医の南和友医師(北関東循環器病院院長、ドイツ・ボッフム大学永代教授)の著書『増補新装版・こんな医療でいいですか?』(はる書房)によると、心臓病センターは人口100万人に対し1施設と決められており、ドイツでは全土で79施設しかないそうです。

 一方、厚生労働省の平成28(2016)年の「医療施設(動態)調査」によると、日本には心臓血管外科を標ぼうしている医療機関数が1093もあります。このすべてが心臓手術をしているとは限りませんが、優にドイツの10倍以上は存在することになります。

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 こうした事情は、心臓外科だけに当てはまることではありません。日本では地方の政治や行政に携わる人たちの中に、「我が市や町に病院がないのは問題」「隣の病院には心臓外科があるのに、こちらにないのはケシカラン」と考える人たちが多いせいか、各地に病院が誘致され、それぞれが重複した医療を提供しています。

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病院を集約化するメリット

 病院が近くにないと不安だと思う人も多いかもしれません。また、病院が遠くになると困るという人もいるでしょう。しかし、医療機関(とくに大きな病院)を集約化することは、メリットが多いのです。

 第一に、外科であれば1施設あたりの手術数が多くなります。心臓手術の場合、日本では1年間の手術数が1000例を超える施設は榊原記念病院(東京)だけで、500例を超える病院も全国で10施設しかありません(週刊朝日MOOK『手術数でわかるいい病院2018』)。

 しかし南医師によると、2005年のデータですが、ドイツでは年間の手術数が1000例を超える病院が51施設もあり、大半が500例以上(78施設のうち70施設)となっています。ドイツだけではありません。世界的に心臓手術ができる施設は集約化されており、欧米には年間1000例を超える病院がたくさんあります。

 手術数が多くなると、一人の外科医が経験できる手術数も多くなるため、腕のいい外科医が育ち、成績も向上すると言われています。合併症が起こった場合も、多くのケースを経験してノウハウが積み重なっているので、適切な対応ができるようになります。

 一方、症例数が少ないと外科医が腕を磨き、一定のレベルを維持することが難しくなります。経験の蓄積がないので、合併症が起こったときのノウハウも十分ありません。こうした理由から、欧米では心臓外科に限らず専門性の高い治療ができる施設を特定の病院に絞り、集約化するようにしているのです。