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髙山 文彦
2016/07/25

50年後の「ずばり東京」第一回
ゴジラとタワーマンション

超高層化が進んだこの街ではゴジラも小さく見える

source : 文藝春秋 2016年8月号

genre : ライフ, ライフスタイル

 

1960年代前半、東京五輪に沸く首都を活写した開高健の傑作ルポタージュ、『ずばり東京』。あれから約半世紀。高度経済成長、バブル崩壊、デフレを経て東京はどのように変わってきたのか。毎月違う筆者がレポートをしていきます。(編集部) 

◆ ◆ ◆

東京タワーの大展望台は、地上から百五十メートルの高さにある。立ちすくんでしまうのではないかと思っていたのに、どうしたことか少しも恐ろしさが感じられない。むしろゆったり落ち着いて、ある楽しみさえおぼえながら、窓の外を見る。

 理由は明瞭。ぐるりと眺めまわす周囲に、ここと同程度か、ここよりもさらに高いビル群が競いあうように林立しているからだ。三十年まえに訪れたときは、怖くなってしゃがみ込んでしまったものなのだが――。

 臨海部には、晴海や品川からはるか千葉方面にかけて、おびただしい数の超高層ビルやマンションの群れ。お台場や汐留や東京駅周辺にもなだれ込むようにそうしたタワーが林立し、目を左に転ずれば虎ノ門ヒルズ(二百五十六メートル)、赤坂の東京ミッドタウン(二百四十八メートル)、六本木ヒルズ森タワー(二百三十八メートル)をはじめとする世に知られた一群が天に向かって突き刺さっている。以前は高く見えていた二十階建て前後のビルたちが、いじらしい茸のように彼らの谷間でうずくまっている。

 これは、この世の景色なのか?

 私は胸がざわざわしはじめた。私の魂の源郷が本能的に“彼ら”を拒否しはじめたのだ。そうして、自分でも思いがけない台詞が唐突に胸をつきあげてくる。

1954年初公開時のゴジラは50メートルだった
Photo:Kyodo

「これじゃあゴジラは、いったい全体どうすりゃいいんだ」

 私の知っているゴジラは、身長が五十メートル、体重は二万トン。二百五十メートル級タワーの五分の一しかない。そんな大きさでは、とても破壊することなんてできないんじゃないか。

 臨海部に延々と連なるタワー群は、ここから見ると隙間もなくたがいに重なりあって、湾を取り巻く壮大な壁として映る。それらは海風を遮り、内陸にヒートアイランド現象をおこしているとさんざん指摘されてきたが、いまでは誰も言わなくなった。埼玉の熊谷では、夏になるたびに日本一の気温の高さを勝ち誇ってみせるようなありさま。そうやって笑いとばすしかないのではあるまいか。

 タワーの群れは隣近所ばかりでなく、遠くの家々の日照時間を奪い、夏には薬缶から噴きあがる湯気みたいな熱風を吹かしまくる。戦後日本の自己実現の結実の姿が、ここにある。文明はもうすっかり私などの手の及ばぬ次元へ行きおおせてしまったのだ。