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中日投手陣「最下位」から先発陣の一角へ 藤嶋健人の挫折と成長

文春野球コラム ペナントレース2018

2018/09/12
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松坂大輔の代役として初勝利

 ついに光が差した。止まっていた歯車が動き出す。

「高校からのトレーナーと12月に石垣島で自主トレをしました。野球の技術だけでなく、栄養学も勉強して体を作りました」

 春季キャンプも完走。開幕は2軍だったが、藤嶋は常に1軍で活躍するイメージを膨らませていた。

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「上で抑えるためにはもっと角度と落ちる球が欲しいと。そこで色々な投手の動画を見ていたら、上原(浩治・巨人)さんが目に留まったんです。僕もテイクバックが小さいタイプ。すぐ真似をしました。そして、思い切って新しいフォームで投げたんです」

 2018年4月15日。ウエスタンリーグ広島・中日5回戦。よほど野球の神様はいたずら好きなのか。また佐伯球場だった。

「バティスタと対戦したんです。内角ストレートで完全に詰まらせました。しかし、風に乗って、ギリギリでホームラン。でも、明らかに去年とは違う手応えがありました」

 この日のロングリリーフが評価され、藤嶋は1軍切符を手にする。4月28日のDeNA戦で初登板。そして、6月17日の西武戦で思わぬチャンスが転がり込んだ。

 先発の松坂大輔が試合前に背中を捻挫。緊急登板の藤嶋は6回2失点にまとめ、初勝利。1年前、2軍のベンチにすら入れなかった男が無数のフラッシュを浴びていた。

「ただ、最も印象的なのは7失点した次の神宮です。初めて負けが付く重さを知りました。自分次第で試合を壊し、チームに迷惑をかける。やられたら、やり返すという思いが一層強くなりました」

 しかし、藤嶋は次も炎上。オールスター休みに1軍登録を抹消された。その日、森繁和監督が言葉を送っている。

「なぜこのタイミングで落とすか分かるか。下で長いイニングを抑えて這い上がって来い」

 指揮官は藤嶋を後半戦の先発の一角として期待していたのだ。奮い立った若武者は結果を残し、再昇格。現在、3勝。勝利への貪欲さは増すばかりだ。

「頑張れ」じゃない。「腐るな」

 中日は定期的にトラックマンの専門家による講習会を開いている。藤嶋はいつも質問攻めだ。

「僕はボールが浮き上がって見えるホップ成分がチーム4位。もっと初速を上げれば、ストレートで空振りが取れると分析して頂きました」

 初速(スピードガン表示)を上げるためにはどうするべきか。

「瞬発力を高めるクリーンというトレーニングが良いそうです。ただ、シーズン中は怪我のリスクがあるので、オフに挑戦します」

 去年の今頃は暗中模索。やっと秋に光が差し込み、前進。今年は表舞台で苦楽を味わい、ついに戦力になった。

「去年の自分にどんな言葉をかけたい?」

「『頑張れ』じゃないですね。頑張ってはいましたから。だから、『腐るな』ですかね」

 懸命に手足は動かした。しかし、動かし方が間違っていた。すると、心は折れかかる。ただ、根さえ腐らなければ、やがて大きな花が咲く。

「来年の自分にどんな言葉をかけたい?」

「分かってるな、今年だぞ」

 即答した右腕に慢心はない。

 早く見たい。藤嶋が渾身のストレートでバティスタから空振り三振を奪うシーンを。その時、飲み干すビールの味はきっとうまいに違いない。いたずら好きな野球の神様も首を長くしているはずだ。

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