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地震とラジオとファイターズ…「日常」を整えることの大切さ

文春野球コラム ペナントレース2018

2018/09/14
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 この度の地震におきましては、全国の皆様から北海道へ暖かいご支援を戴き、本当にありがとうございます。私個人への安否を気遣うご連絡も多くいただき、改めて人の優しさの力を感じました。ありがとうございました。まだまだ不安が続く北海道です。少しでも早く「日常」を取り戻すため、自分にできることを道民として伝える者として努力していきます。

 9月6日、木曜日、午前3時を過ぎてすぐ。平成30年北海道胆振東部地震が発生しました。震源地に近い厚真町では震度7、私の住む札幌市も最大震度6弱を観測した地域もあり、部屋の中のものが倒れるのと落ちてくるのを見はしましたが、そのあとすぐに停電、中も外も真っ暗になりました。地震により全道が停電したブラックアウトの瞬間です。

 夫婦で暮らしていますが、主人は同じ職場のディレクターなので、揺れがおさまるとすぐに局に向かいました。一人になった私は何かあればすぐに出られるように身なりを整え荷物と懐中電灯とラジオと共に自宅待機。地震体制特番になれば担当するのは自分のレギュラーの夜の時間帯と予測し、まずは何とか眠ろうと目を閉じました。みんなが疲れてくる、その時こそ私の出番なら今は睡眠をとっておかなくてはなりません。

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 ファイターズの1軍選手も札幌にいました。前日の旭川の試合後に移動していて、自宅や寮などで揺れにあいました。元々、その日は仙台への移動日で試合は組まれていませんでしたが、新千歳空港が終日閉鎖となったため移動は叶わず、いつ行けるかの目処もつかないため、夕方には翌日の試合の中止が発表されました。多くの選手やスタッフは札幌市東区にある寮で停電・断水の中で過ごし、翌日臨時便で仙台へと移動しました。

地震当日のHBCラジオ

 北海道放送・HBCラジオは地震発生から情報を伝え続けました。いつものレギュラー番組の喋り手がその時間帯のスタジオを守り、いつものように次の番組へとバトンタッチしていく。いつもと違うのは、次々と入ってくる地震の情報をひたすら伝え続けたこと。私は昼過ぎに自宅を出て、歩いて札幌中心部にある局に向かいました。

 街全体が停電しています。信号は消えています、暗がりで営業するコンビニには行列が出来ていますが、ほとんどの店や会社はシャッターが降りたまま。局につくとエントランスは暗く、地下から響く自家発電の音。必要最低限の電力と明かりの下、放送が続けられていました。速報に追われるスタッフは開かなかったまっさらなスポーツ紙が大テーブルにありました。未明の地震は朝刊に間に合うわけもなく、地元紙・道新スポーツの一面は前夜に久々の勝利を挙げた加藤投手のはにかんだ笑顔。そんなたった何時間か前の幸せが、遠い過去のことに思えました。

 私は18時少し前から22時までの約4時間をHBCの小川和幸アナウンサーと担当しました。電力の復旧もぽつぽつと伝えられたその時間からは、地震の情報を軸に、曲も交えながらファイターズやスポーツの情報も入れていこうと決まりました。緊張しました。これほど大きな災害対応でマイクの前に座るのは初めてです。さらにまだ大部分が停電している道内、マイクの向こうのラジオの前はほとんどが暗闇。

 まずは情報を正確に伝えること、声を張ってゆっくり話すこと、トーンはいつもより抑えることを心掛けました。それがその時の私がするべきことだと考えました。でもその考えは、そう時間が経たないうちに変わります。リスナーさんからのメッセージがスタジオに続々と届くのです。

リスナーから求められていた自分の役割

「いつもと同じ時間にいつもと同じ声が聞こえる、安心する」
「聞き慣れたこずゑちゃんの声で緊張が解けた」
「暗いけど、ラジオのこずねえ(私はこうも呼ばれています)がいつも通りだから怖くなくなってきたよ」

 そう、私がリスナーさんから求められていたのは、いつもと同じ場所からいつもと同じ声を届ける「日常」なんだとその時にわかりました。「日常」を整える、守るのが今の自分の役割なんだと。私はいつものようにファイターズについてをいつものトーンで伝えることにしました。

 スポーツ紙の記者さんが取材してくださった地震の時の選手の様子。今日の移動は叶わなかったこと、明日の試合は中止になって代替試合は月曜になったこと。元ファイターズのダルビッシュ投手や矢貫俊之さん、球団スタッフの榎下陽大さん、選手の登場曲を歌うアーティストさんのSNS。ZOZOマリンでは2位のホークスがリードしてしまっていること。海の向こうで大谷選手は今日もホームランを打ったこと。鎌ヶ谷でファームはシーソーゲームを制して勝利を挙げたこと。ヒーローは谷口選手だったこと。

 そうするとその試合を見ていたという関東のリスナーさんが、谷口選手のヒーローコメントを文字にして送って下さいました。実際の本人の言葉回しとは正確には異なりますが、読みやすいように文章にしてくださいました。その時にリスナーさんが送ってくれて、私が紹介したそのままの文章がこちらです。

「今日は応援ありがとうございました。今日の朝型に北海道で地震があって、僕たち北海道の野球チームが遠い離れたところでやっててもいいのかなという想いもあったのですが、今も余震だったりライフラインが戻っていないという状況で僕たちファイターズの人間ができることは、野球をさせてもらっている環境。離れている鎌ヶ谷からファイターズの選手がんばってるんだぞ! という北海道を元気付ける試合になったと思います」

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