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「僕は野球を二度なめたことがある」中日・荒木雅博、41歳の告白

文春野球コラム ペナントレース2018

2018/09/24
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「やっちゃったね! 俺もよくあった。やり返せ!」

 7月9日。横浜スタジアム。DeNA・中日12回戦。荒木はプロ初の代打ホームランを放ったが、逆転負け。2番手の佐藤優が敗戦投手だった。

「2点リードの7回裏ノーアウト1塁。次の柴田(竜拓)をダブルプレーに仕留めた時、優はガッツポーズをしました。まだ終わっていないのに。案の定、逆転。その夜、優には言ったんです。ガッツポーズは試合が終わってからにしろと」

 今、佐藤はクローザーだ。

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「優はいつも顔面蒼白。先発投手や野手の思いを感じているんです。臆病で構わない。失敗即敗戦。だから、必死で練習するし、浮ついた態度は一切ない。彼は勝敗を背負える人間」

 9月15日。マツダスタジアム。広島・中日25回戦。福田永将は2失策し、失点に絡んだ。血の気の引いている後輩に荒木はあえて明るく話しかけた。

「福ちゃん、やっちゃったね! 俺もよくあった。やり返せ!」

 福田は立ち向かったが、3打席2三振で途中交代。肩を落とした。

「福田こそ鑑です。真面目で努力家。僕は彼が4番に座る日を待っています。だから、あの瞬間、思わず涙が込み上げました」

 9月17日。東京ドーム。巨人・中日25回戦。福田は勝負を決める3ランをレフトスタンドに叩き込んだ。荒木はベンチでつぶやいた。

「よくやり返したな」

 5年で故郷に帰るかもしれなかった青年は夢舞台に立ち、勘違いし、甘えを断ち切り、常勝軍団の一翼を担うまでになった。今は若手の活躍を厳しくも温かい目で見守っている。

「ところで、心に染みる曲は?」

「槙原敬之さんの『僕が一番欲しかったもの』です。素敵なものを拾うのですが、僕以上にそれを必要としている人にあげちゃう。また、拾う。また、あげる。それを繰り返す歌」

 多くのファンが荒木のヒットに興奮し、守備に魅了され、走塁に酔いしれ、笑顔になった。ベストナイン3回。ゴールデングラブ賞6回。通算2039安打。378盗塁。荒木は素敵なものを拾い続けた。

 歌詞はこう続く。

「ここまで来た道を振り返ってみたら、僕のあげたものでたくさんの人が幸せそうに笑っていて、それを見た時の気持ちが僕の探していたものだと分かった」

 後輩の成長。ファンの笑顔。

 プロ23年目。泥だらけのユニフォームが似合う41歳は今年、今までで一番素敵なものを拾う事ができた。

※若狭敬一さん×大谷ノブ彦さん×川上憲伸さんの「第四回スポ音×キスころ竜党トークライブ」10月1日(月)開催! 

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