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長年にわたる研究で明らかになった画期的治療法とは?

『アルツハイマー病は治せる、予防できる』 (西道隆臣 著)――鼎談書評

source : 文藝春秋 2016年12月号

genre : エンタメ, 読書

 

中村 長い間アルツハイマー病の解明に取り組んで来た研究者による新書で、積み上げてきた事実と研究にかける熱意、そして研究の現状とを正確に伝えています。脳のなかにタンパク質の一種が溜まることにより記憶を司る海馬が冒されるアルツハイマー病は、脳の老化と切り離せないため寿命が延びるにつれて患者数が増え、現代社会でも関心が高い病気のひとつと言えます。

山内 私も人ごとではなく、日々心配しています(笑)。

中村 世界中がアルツハイマー病克服を目指して研究を進めた結果、神経伝達物質のひとつであるアセチルコリンの減少が関係しているとわかった。ところがアセチルコリンの働きを強化して発症を遅らせる薬はあるものの、根治薬や予防薬はまだ開発できていません。マウスを使った臨床実験では効果が見られても、ヒトによる臨床試験では失敗続きでした。結核のように外部からの菌によって起こる感染症と違って、アルツハイマー病や癌といった、ヒトの内部で引き起こされる病気の薬を作るのはたいへん難しいんですね。

 著者の西道(さいどう)さんがすごいのは、臨床実験で使ったモデルマウスが的確ではなかったと仮説をたて、マウス作りから手がけたその情熱です。2002年に、よりアルツハイマー病患者の脳に近いモデルマウスの作製をはじめ、試行錯誤を繰り返して成功するのが2014年。12年という長い時間がかかっています。

片山 失敗すれば、時間も労力もすべてパーになってしまう。研究者としては怖いですね。

中村 ええ、でもこういうところで信念を持って動くことが優れた研究には必須です。モデルマウスのおかげで、病を引き起こすタンパク質の分解を促す酵素を活性化させる根本治療法が見えてきました。これから創薬、臨床実験と実用化に向けて進んでいくわけですが、まだ道半ばとはいえ、今は西道さんもかなりの達成感を感じていると思います。

山内 年を取って記憶力の衰えを自覚するようになると、「ひょっとして自分も『呆け』が始まっているのではないか」という不安が出てくる。この本はタイトルも秀逸で、思わず手に取りたくなりますよ。

片山 専門用語を交えた研究過程の詳細な説明も、流れがあって読みやすい。内容が濃い新書ですね。

山内 老化と認知症の違いもきちんと書かれているので、私の記憶力の衰えは老化の一種で、認知症ではないとわかって胸を撫で下ろしました(笑)。ものを書いたり考えたりと、仕事をしている方が脳は老化しないという通説は本当ですか。

中村 もちろんです。肝臓のように再生可能な臓器と違って、脳はほとんど再生しません。老化防止のためには神経細胞を活性化させる必要があり、それには頭を使ってシナプスを刺激するのが一番。どんどんお仕事をなさってください。

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