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もしも岡本和真がいなかったら、どんな気分でペナントを見ていたのだろうか?

文春野球コラム ペナントレース2018

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期待される巨人生え抜き右打者初の記録

 2018年の巨人は勝率5割に届かず、DeNAとの3位争いがやっとという状態だ。それでも、我慢してペナントを追えるのはこの男の存在が大きい。たとえ、広島に大差をつけられようと「岡本が3割30本クリアできそうだからまあいっか」。救援陣が毎度おなじみの炎上をかまそうが「岡本がホームラン打ったからまあいっか」。スマホを落として画面が割れても「岡本が育ったからまあいっか」ともはやなんだかよく分からないけど、多くの巨人ファンは新4番バッターに救われている。もしも岡本和真がいなかったら、俺らはどんな気分でペナントを見ていたのだろうか? 想像しただけでゾッとする。

 でも、冷静に考えると年間7完封のエース菅野がいて、打率リーグ2位のショート坂本がいて、さらに岡本が出てきたにもかかわらず、優勝とは程遠いリアル。仮に14勝8敗の菅野が19勝3敗でもカープには届かない。現に背番号19が沢村賞を始め投手タイトルを総なめにした昨季もチームは4位だった。野球はひとりの力じゃどうにもならない。例えば、田中将大が24勝0敗と神がかった連勝記録を作った13年シーズンの楽天にも15勝を挙げたルーキー則本昂大がいた。だから、菅野もオフにはチームの底上げを目指し海外自主トレに多くの後輩投手を連れて行ったのではないだろうか。

 1年前、巨人では若手野手が育たないと散々突っ込まれていたが、今年はその発展途上の若手がそれなりに育った。でも、それだけじゃ勝てなかった。育成と補強、どっちかじゃない。どっちもバランスよく上手くやるのが編成の仕事だ。強力打線の広島や西武が生え抜きを並べているからと右へ倣えじゃなく、巨人は巨人のやり方で再建すればいい。チーム背景はそれぞれ違う。10年前、スタメンに由伸やガッツ小笠原のビッグネーム、それに若き亀井や坂本がバランスよく並んだあの感じこそひとつの理想じゃないかと個人的には思う。

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 今も「個」では何人か素晴らしい選手がいる。彼らをベースにいかにチームを再構築するか。残念ながら故障離脱してしまったが、そのポテンシャルが開花しつつある吉川尚輝がショートを守れれば、坂本の身体の負担を考えキャプテンの将来的な三塁転向も現実味を帯びる。ルーキーキャッチャー大城の成長が打線の厚みに直結する。なにより、岡本という今後10年はクリーンアップを託せそうな和製大砲が出現した。巨人で過去に40発放った右打者は小久保裕紀やラミレスといった移籍組だ。長嶋さんも、原さんも、坂本も生え抜き右打者は誰もその壁を突破できていない。だから、来季の岡本には誰も届かなかった「40本の壁」をぶち破ってほしい。
 
 野球界の時の流れは早い。あの頃、しのぎを削ったライバル落合中日の黄金期を支えたベテラン陣が続々と引退。頼れる杉内俊哉も愛すべき矢野謙次も現役に別れを告げ、原巨人の中心選手たちも終わりが近い。球界全体でも本当に今季は多くの時間をワリカンした名選手たちが引退してしまった。平成という時代にももうすぐサヨナラだ。寂しさがないと言ったら嘘になる。けど、不思議と未来に絶望はない。

 だって、確かに岡本和真の時代が始まったのだから。

<追記>
 28日夜、東京ドームには村田修一が来場した。特製タオルは開場30分ほどで完売し、スーツ姿でグラウンドのマイクの前に立ち挨拶。9回裏に長野のサヨナラ弾で決着がついた試合後は、巨人時代の応援歌、そして横浜時代の応援歌が流れる中を場内一周へ。リズムに合わせ涙を流しながら自ら拳を振り上げちゃう人の良さに、降り注ぐ拍手と大歓声。その背中は、まさに“男・村田”というより“大人・村田”だった。そう、37歳のひとりの大人だ。これからも頑張れ、村田さん。いつの時代も、引退セレモニーは、戦いを終えたプロ野球選手が「普通のおじさん」に戻る儀式である。

 See you baseball freak……

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