文春オンライン

中国の奥地に住む「ラブドール仙人」に弟子入りした話

200平米の家に8体のラブドールと住む60歳

2018/09/03

genre : エンタメ, 国際

note

学歴が高く、既婚者が多いドール仲間

――『百度貼吧』の「実体娃娃(リアルドール)」板とか、賑わってますよね。中国のラブドール愛好者ってどういう人たちなんでしょうか。

仙人 うーん、そうだな。彼らの学歴は低くはない。私の娃友(ドール仲間)には経営者もいるぞ。あと、全体的な傾向としては既婚者が多いな。ただ、学生もいるし、逆に80代の老人もいる。女性だっている。実際に、若い女の子のドール愛好家の何人かとはウィー・チャット友達だ。

――レズビアンの女性がラブドールを買っているということですか?

ADVERTISEMENT

仙人 違う。彼女らはコスプレ好きなんだよ。等身大の着せ替え人形として、ドールにお化粧をしたり服を着させたりするのだ。ネットで知り合った雲南省の女子大生は服作りが趣味で、うちのドールのコスチュームを作って送ってくれたな。

 わし自身、正直なところ、ドールたちは服装モデルみたいなものだと思っている。単に、彼女らは美しいので性的な用途でも使用可能であるだけだ。メンテナンスの視点から見ると、ドールの寿命を縮めるのでわしはそういう気にはならないね。

「ドールの股間の部分をチェックしてみるがいい」

――本当にそうなんですか?(笑)

仙人 ああ。気になるならドールの股間の部分をチェックしてみるがいい。小雪をはじめ、わしが直接買ったドールはひとつも傷がないぞ。だが、保管室に置いてあるドールは、広東省のドール仲間が結婚する際に処分しなきゃいけなくなって、わしに泣きついてきたので引き取ったものだ。あちらは股間のシリコンに裂けがある。

――なるほど。人からもらったものもあるんですね。

仙人 いくつかはそうだ。ちなみに以前、日本のO社(業界大手)のドールをもらったが、顔がわしの趣味ではなかったし、造形のクオリティも高くなかったので手放した。身体の可動性も表情もイマイチだったんだ。どうやら日本人は素朴な顔立ちが好きみたいだが、わしとしてはもうすこしはっきりした顔立ちのほうが好みなのだ。

 ほか、中国メーカーのなかには宣伝効果を狙って製品のプレゼントを申し出る会社もあるが、あれらはクオリティが低すぎて断っている。そもそも、肌がシリコン製ではなくTPE(熱可塑性エラストマー)製なのがいただけん。あれは柔らかすぎるし表面に油が浮くし、ゴムの匂いはキツいし、何より安っぽい。聞いてくれ。そもそもラブドールの肌に求められるべき概念とはだな……。

――は、はい。ところで8体のドールのうちでいちばんのお気に入りは?

仙人 やはり小雪だな。他のドールは一種のコレクションみたいな部分もあるが、小雪は特別で、自分の娘と同じだと思っている。いっしょに旅行に行ったりもする。ラブドールが家にいる暮らしというのは実にいいもんだぞ。

テーマ「カラオケで熱唱している横でスマホばっかりいじっているラブドール」。確かによく見る光景だが……(写真提供 離塵)
テーマ「畑の隅で仏像を眺めるエルフのラブドール」。貴州省は自然が豊かである (写真提供 離塵)

「あの人がやるならば」。親族からは理解されている

 とまあ、ラブドール仙人は実にテンションの高いおっさんであった。もっとも、サイバーでエピキュリアンな彼だが、いっぽうで中国の農村の民としての顔も持っている。

 それはホスピタリティにあふれており、しかも親戚づきあいも活発な点だ。この日の夜も、私を歓迎して彼の義弟(姉妹の夫)とその16歳の娘と8歳の娘が家に遊びに来て、みんなで夕食を食べることになった。

 ちなみに、若い頃は公的な医療機関に勤務する職員であった仙人は、村では有数の知恵者だ。彼のブッ飛んだ趣味についても、どうやら親戚や近所の人たちは「あの人がやるならば」と納得しているらしい。16歳の姪(かなりかわいい)が普通に姉妹だけで仙人の家に来て料理作りを手伝っているのを見ても、彼が親族からの理解を得ているのは間違いないようだ。

「この村には警察権力が及んでいないんですか」

 夜、仙人お手製のハチミツ酒(アルコール度数50度)を飲みながら、彼と義弟たちと歓談した。私が「この辺では、村と村同士で戦ったりはするんでしょうか?」と尋ねると、義弟氏は「規模はでかくないけど、あるなあ」と答える。仙人が話を引き継いで言った。

「村同士の戦いもあるが、それよりも外部の人間に対してだな。泥棒がいたら村人みんなで半殺しにするのだが、この場合は警察も事情をわかっているから捕まえないんだ」

「この村には警察権力が及んでいないんですか」

「違う。村人が村人を殺した場合は警察が来て捜査もする。ただ、外から来た泥棒を村人がよってたかってぶっ殺した場合は、誰が犯人だかわからないし、真面目に捜査はしないのだ」

 ハチミツ酒に悪酔いしながら、貴州省の山奥の夜は更けていく。まだ1日目が終わったばかりだ。ラブドール仙人の話はまだまだ続くのである。

中国の奥地に住む「ラブドール仙人」に弟子入りした話

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー