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自ら学ぶロボットが、金融市場でひとり勝ちする未来

『人工知能が金融を支配する日』 (櫻井豊 著)――鼎談書評

source : 文藝春秋 2016年11月号

genre : エンタメ, 読書

 

宮家 日本でも「フィンテック」(finance + technology)という造語はずいぶん知られてきましたが、この本を読むと、現代の金融においていかにテクノロジーが不可欠になっているかよくわかります。

 外務省にいた1994年、私は金融サービス貿易交渉に交渉官として携わっていました。その後、WTOでの合意をきっかけに、大蔵省は96年に金融の自由化を進める、いわゆる「金融ビッグバン」を実施します。それから20年、金融はここまで変化したのかと驚きました。

 登場するのは、人間が「教える」ことによって学習するのではなく、アルゴリズムが自分で投資の判断を行なう「ロボ・トレーダー」や、ビッグデータを分析して顧客の資産運用に助言を与える「ロボ・アドバイザー」など人工知能を利用したロボットと、それらを使って資産家たちの巨額の富を動かしている欧米のヘッジファンドです。

 近年の人工知能の進化は著しく、今年に入ってグーグルの子会社が作った「アルファ碁」が囲碁の欧州チャンピオンや韓国のトッププロから勝利をあげました。ビッグニュースですよ。金融の世界では欧米のファンドが理系の研究者を引き抜いてAI開発にしのぎを削り、運用そのものを機械にやらせようとしている。超高速ロボ・トレーダーは数百ナノ秒で取引を行ない、勝率も高い。従来の金融市場ではウォール街の金融機関や日本のメガバンクが主役で、ファンドはその顧客にすぎませんでしたが、ロボットの登場でファンドがひとり勝ちし、主役に躍り出る可能性も出てきた。金融界を根本から揺るがせる大きな変化です。

山内 このスピード感では、日本の個人投資家を示す言葉として話題になった「ミセス・ワタナベ」なんて、到底生き残れないね。ロボットと聞くと、つい人型の「ASIMO」などを連想してしまうけれど、最前線はまったく違う世界になっている。

宮家 人工知能の進化によって、人間と機械の関係は根本的に変化するでしょう。人間がロボットを使うのではなく、ロボットが能動的に学んで動く。すごいことですが、一方で恐ろしいとも感じます。

片山 知的労働も単純労働も、正確さや経済性を追求すれば、みんなロボットになってしまう。そんな人間不要時代がもう目前なのでしょう。ピケティの師匠のアトキンソンが、労働組合の力を高めてロボット化を阻止すべきと主張していると思いますが、本書を読んでその通りと思いました。しかし国際金融に限れば人間は電脳に負けるに決まっていますからね。資本主義やめますか、ロボットやめますかみたいな話で(笑)。

山内 19世紀初頭に産業革命に反対して機械を打ち壊した、イギリスのラッダイト運動さながらだ(笑)。

片山 ラッダイト運動は失敗しますが、当時は産業革命の先に第二次産業、第三次産業と雇用が広がって行く無限とも思える可能性があった。ところが現代社会でロボットに駆逐された人間には、多分その先がない。

宮家 国家と人間との関係も、新たなモデルにならざるを得ないかもしれませんよ。たとえば国民はすべて生活を保障された国家公務員になり、ほとんどの仕事はロボットが行なう。もしくはロボットが独裁者になって、人間社会を支配する。

片山 そして人工知能が弾き出した必要数しか人間は生存を許されない……とくれば、これはもうSFでおなじみのディストピアです(笑)。

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