昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

連載THIS WEEK

安倍政権に「期待する方が悪いのか」 石弘光・元税調会長の最後の言葉

2018/09/06
10月2日には「お別れの会」が行われる ©共同通信社

「がんになったので夜の会合はだめ。でも誰かとランチをするのは楽しい」

 最後まで活動的だった元一橋大学学長の石弘光さんが、すい臓がんのため8月25日に亡くなった。享年81。

 財政再建派を代表する学者だった。政府税制調査会の会長を務めたし、アカデミズムの世界でも栄達を重ねた。

 それなのに、偉ぶるところがない。ネアカな人柄にひかれ、学者仲間、教え子、官僚、取材記者などが混然一体となり周りに集まった。例えば、蔵王で趣味のスキーを皆でやっていたらいつの間にか「ZAO会」が結成され、メンバーは40人近くになっていた。

 私が最初にお会いしたのは20年前になる。「財政構造改革」という言葉の生みの親の一人で、「プライマリー・バランス」という専門用語も広めた石さんは、学長室で財政再建の必要性を熱っぽく語った。

 そんな泰斗が第一次安倍政権発足直後、税調会長再任を拒まれたのはショックだったろう。思うように進まない健全化や、「拡張派」が跋扈(ばっこ)する現状にも憂いを深めていた。

 黒田東彦日銀総裁とは30年来の友人で、最近も黒田氏が書いた論文が送られてくると感想を返す仲だった。アベノミクスに批判的な石さんからすれば、友がその先導役を担っている現状には複雑な思いだったはずだ。

「財政の進むべき道を示してくれる道標」と石さんを評していた木下康司元財務次官は、ある会合で顔を合わせると、「財務省ががんばらなきゃだめだ」と叱咤されたという。

 今年6月末、私が最後に電話で話を聞いたときも、財政再建に対する現政権の姿勢を厳しく批判していた。

「やる気がないのがよく分かる。期待する方が悪いのか」口調からは諦観も漂った。

 ただ、明るさと前向きな姿勢は最後まで変わらなかった。昨年、『末期がんでも元気に生きる』を出版。続編の原稿も書き溜めていた。最後になった「ZAO会」に真美子夫人同伴で現れた石さんは、アベノミクスを賑やかに批判すると、いつもと同様軽やかに去っていったという。

 前掲書にはこうある。

「難治がんになったとしても2年ほど元気に活躍し、その後数カ月で死去したとしても、充実感を持って人生と別れを告げられるに違いない」

 すい臓がん発見は16年6月だから死期は計算通り。充実した人生だったろう。