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本郷 和人
2016/12/23

男のかっこよさ

『孫子』『燃えよ剣』『警察庁から来た男』

source : 文藝春秋 2017年1月号

genre : エンタメ, 読書

本郷和人氏

選択のキーワードは「男のかっこよさ」。まずは海音寺潮五郎『孫子』(講談社文庫)。「呉越同舟」や「臥薪嘗胆」などの言葉を生んだ春秋時代の呉国。呉の王・闔閭(こうりょ)に仕えた将軍・孫武の活躍を描く。彼は元来が一村夫子。気弱でおとなしく、唯々諾々と妻の尻に敷かれている。古今の戦争を分析するのが趣味のただの「戦争オタク」を、超大国・楚への復讐に燃える伍子胥(ごししょ)が見出し、王に推挙する。王の前で萎縮する孫武であったが、ひとたび「いくさ」の話になるとその舌鋒は鋭く、実際に軍を動かすや多大な戦果を挙げる。孫武と伍子胥は楚を滅亡寸前にまで追い込み闔閭を覇王の座に据えるが、孫武は栄光を捨てて静かに去って行く。森繁久弥と加藤道子のラジオ・ドラマ「日曜名作座」で本作を知ったぼく(調べたら1974年のこと)は急ぎ本を買い求めてむさぼり読み、孫武の出処進退のみごとさに深い感銘を受けた。最近、海音寺は取り上げられることが少ないように感じるが、あまりに惜しい。おすすめ!

 次いで、その海音寺が世に送り出したといっても過言ではない(だが、そのこと自体が忘れられている)司馬遼太郎の『燃えよ剣』(新潮文庫)。司馬の盛名は衰えを知らず、彼が見出した坂本竜馬は、高校教科書に取り上げられるまでになった。その竜馬とバランスを取るように司馬が練り上げた人物が、本作の主人公である新選組副長・土方歳三である。問答無用、男はかくありたい。未読の方は是非。

 最後に、かっこいい男を書かせたら現代のNo.1だと思う佐々木譲の作品から、『警察庁から来た男』(ハルキ文庫)。「北海道警シリーズ」第二弾にあたる本作では、従来の「犯罪vs警察」、「組織としての警察vs個人としての警察官」という複合要素に、さらに「中央vs地方」と「キャリアvsノンキャリ」という対比が加えられ、実に鮮やかに描き出される。でもやっぱり、男は名誉や金じゃなく、現場でがんばるからかっこいいんだよなあ、の一冊。

孫子 (講談社文庫)

海音寺潮五郎(著)

講談社文庫
1974年2月 発売

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燃えよ剣 (ハルキ文庫)

司馬遼太郎(著)

新潮文庫
1972年5月 発売

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警察庁から来た男 (ハルキ文庫)

佐々木 譲(著)

角川春樹事務所
2008年5月15日 発売

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