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デリヘル嬢を通して被災地の真実を描く

『震災風俗嬢』 (小野一光 著)――鼎談書評

source : 文藝春秋 2016年7月号

genre : エンタメ, 読書

 

井上 2011年の東日本大震災の1カ月後から、5年あまりにわたって被災地のデリヘルで働く女性たちにインタビューを重ね、彼女たちを通して震災を描いたルポです。これまでメディアが光を当てなかった部分を丹念に追い、性を入り口に人間というものをしみじみ考え直させてくれるいい本でした。

 震災直後に被災地に入った筆者は、1カ月ほど経って被災しながら働いているデリヘル嬢がいると聞き、「人間が人間である限り、いかなる状況であっても性から逃れることのできない現実を、性に癒やしを求め、癒やされている現実を知りたかった」と取材を始めます。デリヘル嬢が語るのは、たとえば除染作業に従事する人は「汚いしつらい」とこぼすものの若干羽振りがよく、120分のロングのコースを注文するとか、仮設住宅は壁が薄くてセックスレスになるからデリヘルを利用するとか、震災後のリアルな人間の姿です。そこにひきこまれました。

山内 震災のときに石巻市で接客中だった女の子が3人いて、1人はお客さんが「すぐに逃げるべ」と車で送ってくれ、もう1人は壊れたホテルの車庫のシャッターをみんなでこじ開けて逃げ出した。ところが3人目は、お客さんが「まだイッてねえ」とごねたからお金を返して逃げたという。男の業を感じさせるね(笑)。

片山 登場する9人の女性のなかでも、筆者と同年代の44歳で、震災で両親を失ったユキコさんがこの本の核になっています。両親の遺体が発見されるまでの苦しみや夫との関係、年下の恋人や子どものことなど包み隠すことなく語り、5年にわたってインタビューを重ねるなかで、彼女の心理も移り変わって行く。

井上 ユキコさんが自分よりも壮絶な体験をしたお客さんに会って「本当に、仕事には癒やされました」と語る一方で、「やっぱ、重いですよ」と呟く女の子もいるし、PTSDに苦しみ、仕事を辞める子もいます。彼女たちの多くは、震災からそう日が経たないうちに仕事に戻っています。岩手県でデリヘルを経営するシライさんは、3月下旬には女の子たちに「もしすぐに働きたいのなら、前沢に待機所のマンションがあるから、そこに寝泊まりしながら何日か働いて戻るということもできるよ」と電話を入れている。業者にとって、被災地は性の需要が増す稼ぎ先であり、女の子にとっては、たとえ肉親を失っていても、生活に必要なお金を稼ぐことのできる仕事なんです。

 実は関東大震災の後や第二次世界大戦の後の東京や大阪の焼け野原でも、性産業は他に先駆けて復興しました。今回も、他府県の業者が東北地方にこぞって店を出している。

片山 戦争や災害などの極限状況でも、性は必ず人間に必要なものとして現れてきますからね。

井上 震災後1カ月すると雑誌でも原発以外は記事にならなくなり、エロなら企画が採用された、というのも切ないですけれど(笑)。