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国境なき医師団・看護師と新聞記者・望月衣塑子が語る「日本人と紛争地」

白川優子(国境なき医師団看護師)×望月衣塑子(東京新聞記者)

note

ドバイの武器市に展示された日本の輸送機

望月 私は、知らず知らずのうちに戦争に加担していることに気付かないことが、一番恐ろしいと思って、日々取材でも意識するようにしています。イエメンといえば、つい先日、子供たちが乗ったスクールバスが空爆されて、数十人の子供たちが亡くなりました。サウジアラビア率いる連合軍の誤爆だったと、世界中で非難されています。これだけ聞くと、遠い世界の話のように思います。でもちがう。

 昨年末、ドバイの武器見本市に、日本の防衛装備庁と川崎重工が開発した輸送機が展示されたんですね。それを見に来ていたのが、まさに連合軍の幹部たちでした。日本の輸送機について「我が連合軍でも使用を検討したい」と語っていたと報じられています。今後、日本が間接的であっても、そこに関わるとしたら恐ろしいことだと思っています。

白川 私が派遣されるような紛争地にも、当事国以外の国で作られた武器が入ってきているでしょうし、それによって一般市民の血が流れているかもしれない。現場にいると、本当に目の前の患者しか見られないけど、望月さんの話を聞いていると気付かされることが多いですね。

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紛争に巻き込まれ、顔を怪我した男の子を処置する(イラク・東モスルにて)

ガザではデモに参加した市民が砲撃される

望月 つい先日、川崎市で、イスラエルの軍事見本市が開かれていました。2020年の五輪を意識した、サイバーセキュリティ技術の展示がメインです。だけど、そこに出品しているのは、イスラエルでは有名な軍事企業ばかりで、普段はパレスチナの人々を攻撃する武器を開発する企業です。そうした企業が日本で技術を売ろうとしています。国外で開く見本市はロシアに次いで二例目で、安倍政権以降の日本とイスラエルの接近を感じさせる出来事でした。

白川 私はパレスチナのガザ地区に派遣されたことがあります。「天井のない監獄」と呼ばれるガザでは、数年に一度、イスラエルから激しい爆撃を浴びせられます。2014年の空爆では、50日間で5000人超の方が亡くなりました。その直後、やはりイスラエルで武器の見本市が開かれていて、「私たちの武器は実戦でもこんなに効果がある」といったことを宣伝していたと聞いて、怒りを通りこして、悲しくなりました。

望月 トランプ政権が米大使館をエルサレム移転させ、パレスチナでは盛んにデモ活動が行われています。デモに参加する市民をイスラエルが砲撃したことで、同地の混迷はより深くなっていますね。今年3月から5月までで1万3000人以上が負傷、128人の方が亡くなりました。

「私の同僚が4、5日前に撃たれて亡くなった」

白川 ……どうしても話したいことがあります。この写真を見てください。暗闇で男性看護師が2人で赤ちゃんの処置をしています。なぜ暗いかといえば、イスラエルによって電気の使用を制限されているから。2015年12月~2016年4月に活動していた時の写真です。

 2人のうち後ろに写っている方の男性看護師がつい4、5日前に亡くなったという知らせを受けたんです。自分の部下でしたので、絶句してしまいました。

停電のため携帯のライトを用いて、火傷した乳児の治療を行う。この後ろの男性看護師が亡くなった

望月 えっ、撃たれたんですか?

白川 はい、イスラエル側が流したネットニュースに死体が写っていました。ガザの情報は断片的にしか入っていませんので、正確なところはわかりません。ただし、私がいた時よりも状況がひどくなってきているように思います。