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14年半の歴史に幕「時事放談」御厨貴が明かす「野中広務が“下座”にこだわった理由」

「時事放談」司会者・御厨貴インタビュー#1

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野中広務「席の譲り合い」にかける執念

――立場が「変容する」と言えば、御厨さんが司会を務めている期間には自民党から民主党への「政権交代」がありました。

御厨 『時事放談』は「テレビ元老」と呼ぶべきベテラン政治家と、現役バリバリの政治家を組み合わせてゲストに呼ぶことが多かったんですが、民主党には藤井裕久さん、渡部恒三さんといったあたりしか元老クラスはいなかった。それで若手・中堅クラスの議員に声をかけることが多くなったんですが、立ち居振る舞いがやっぱり自民党保守系の人たちと全然違うんです。

――何が一番違いましたか。

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御厨 スタジオへの入り方です。当時の民主党議員には相手が誰であろうと、スタスタと一人で先に入っちゃう人が結構いました。これは、人によっては「何だあいつは」という反感を招きかねない。

 

――礼儀がなっていないと。

御厨 そう。政治家同士の関係なんて、裏で舌出しながらもお互いのメンツを立て合う世界です。だから席の譲り合いっていうのが収録前の政治セレモニーであり、一つのバトルなんですよ(笑)。それを民主党議員はわかっていなかったね。その点、野中広務さんの「席の譲り合い」にかける執念はすさまじかった。まず絶対に下座を取るんです。野中さんは誰が相手でも「長老クラス」でしたから、下座を取られた方はそこで完全に恐縮しなきゃならない。収録前から相手を萎縮させる。ある種のマウンティングで、これは見ていてすごかった。

野中広務より先に「下座」に座っていた男

野中広務氏 ©文藝春秋

――いわゆる一つの野中イズムですね。

御厨 「今日の主役はあなたや。俺は拳拳服膺、お話を聞いとるわ」って言いながら下座に座って、上座を勧める。野中さんに聞いたことがあるんです。「いつもこうなんですか」って。そうしたら「1対1で会うときは、30分前には到着するようにして、下座に正座して待っとるんや」って、こう言うわけですよ。

――ははあ。

御厨 ところが「俺よりもっと早く着いて、俺を待っとったやつがおった。それには負けたわ」って言うんですね。誰ですかって聞いたら「小沢一郎や」って(笑)。

――よりによって野中さんとは因縁の……。

御厨 1時間前に来て座ってたらしいですよ。まあ、とかく政治家の世界は生々しい。こういう文化も、自民党の派閥政治が生んだ振る舞いの一つだと思います。政治家として生き残るには先輩後輩関係が基本ですからね。言ってしまえば「行儀」。それが保守政治を支えてきた一つのあり方にもつながると思いますよ。