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14年半の歴史に幕「時事放談」御厨貴が明かす「野中広務が“下座”にこだわった理由」

「時事放談」司会者・御厨貴インタビュー#1

なぜベテラン政治家は「スイーツ」を食べないのか

――何か理由があるんですか。

御厨 これは「保守のダンディズム」だと思います。つまり、自分が支配しているこの『時事放談』の時空間を、物を食べるという行為によって揺るがしてはならないというイズムです。食べると顔は歪むし、食べこぼすかもしれない。あるいは喉に詰まって咳き込む可能性だってある。政治家は人様の前では隙を見せてはならないという緊張、ポージングがあるんですよ。

2009年5月31日放送 右から野中広務氏、増田寛也氏(収録後か休憩中に生茶ゼリーを食べている) 提供TBS

――不特定多数が見ているテレビ出演だからこそ、余計にそう思うんでしょうか。

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御厨 テレビが特別だと思っている世代なら、なおさらでしょうね。逆に若い政治家は全然食べることが平気で、ペロンペロン食べちゃう。おかわりした人もいたな(笑)。

――その名の通り「放談」番組だからこそ、収拾がつかなくなったことはありませんか?

御厨 たしかに、この番組はあくまで「放談」ですから、相手の話に相槌は打っても途中で遮ることはしないわけ。ただ、一人に7分を超えて喋らせ続けるのは絶対にNGというのは決まっていたんです。7分を超えると「放送事故」とみなされるレベルで、視聴者もチャンネルを変えるタイミングになるんだそうで。ところが、5分とか6分とか、危ない場面もありましたね。スタジオにいるスタッフは「巻きだ、巻きだ」って焦っているのがわかるんだけど、話が止まらない。こっちは「〜〜なわけだよ。」と言ったところで間髪を容れず「さて、」と切り替えたいんだが、敵もさるもの「〜〜なんだが、」ってまた話が続く(笑)。

 

「今日はわし、相手より2回喋るの少なかったわ」

――ひとりが一方的に喋ってしまうと、もう一人は怒りませんか。

御厨 人によっては、そりゃもう。そうなったら、一旦CMのタイミングで収録を止めた時に、僕とアシスタントのアナウンサーとで真っ先に謝りに行きます。「次のコーナーでは必ず先生に」って。ある政治家は「今日はわし、相手より2回喋るの少なかったわ。次回、返してもらうからね」って(笑)。

――さすが執念の政治家ですね(笑)。

御厨 「わかりました」ってお茶を濁してやり過ごすんだけど、こういうことがよくありましたよ。だからあの番組の司会は、細かいことを気にしていたらとても務まらない。一度、収録の後に別のラジオ番組に出たことがありますけど、まあこれが非常にラクに感じてね(笑)。とはいえ、僕にとって『時事放談』というのは、本当に貴重な「政治道場」でした。

#2へ続く

 

写真=平松市聖/文藝春秋 

みくりや・たかし/1951年、東京都生まれ。専門は政治史、オーラル・ヒストリー、公共政策、建築と政治。東京大学法学部卒。ハーバード大学客員研究員、東京大学教授などを経て、東京大学先端科学技術研究センター客員教授・放送大学客員教授・東京都立大学名誉教授を務める。著書に『政策の総合と権力』『馬場恒吾の面目』『権力の館を歩く』『平成風雲録』など多数。

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