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赤坂太郎
2016/02/10

安倍の解散戦略を狂わすWパンチ

株安に甘利スキャンダル。波乱の始動となった1年をどう乗り切るのか

source : 文藝春秋 2016年3月号

genre : ニュース, 政治

カット・所ゆきよし

「閣僚のポストは重い。しかし、政治家として自分を律することはもっと重い。何ら国民に恥じることをしていなくても、私の監督下にある事務所が招いた国民の政治不信を、秘書のせいと責任転嫁するようなことはできない。それは私の政治家としての美学、生きざまに反する」

 1月28日夕刻、首相官邸近くにある内閣府一階の会見室。1週間前に発売された週刊文春が報じた金銭授受疑惑について記者会見する経済再生担当相・甘利明は時折、声を詰まらせながら閣僚を辞任する理由を語った。

 安倍晋三首相にとって、甘利のスキャンダルは、年初からの急激な株価下落に続く予期せぬ事態となった。

「甘利さんはどう言っているんですか?」

 甘利の記事が掲載されるとの一報を聞いた安倍は、困惑した表情で甘利に確認するよう指示したという。

 閣僚の「政治とカネ」の問題は内閣支持率に影響しやすい。第一次安倍内閣も、閣僚の「政治とカネ」が失速の始まりだった。安倍の脳裏には、その記憶がよぎったのだろう。

 甘利は、安倍が初めて自民党総裁の座を射止めた2006年総裁選でいち早く安倍支持を打ち出し、第一次安倍内閣では経済産業相に就任。安倍が再起をかけた2012年の総裁選では選対本部長を務め、政権復帰するまでは政調会長として野党党首の安倍を支えた盟友である。第二次内閣では担当相としてTPP締結交渉に尽力するなどアベノミクスの立役者でもある。

 雑誌が発売になる直前、甘利は安倍にこう伝えていた。

「迷惑をお掛けするので、お任せします」。事実上の進退伺いとも言える内容だった。しかし安倍は「事実関係をしっかりと調べて、説明できれば大丈夫です」と慰留した。

 雑誌が発売になった21日、安倍は、東京・大手町の読売新聞東京本社ビルで、同グループ本社会長の渡辺恒雄、産経新聞相談役の清原武彦らと会食。その席上、出席者から「政権維持のために甘利を辞めさせた方がいい」と助言されても、安倍は頷いただけで答えなかったという。そして「ただ答弁できる人はいても、TPP交渉の場にいた人が答弁するのとは迫力が違う」と、甘利を改めて評価した。

 しかし、程なくして甘利から安倍サイドに、金銭の授受に関しては事実であること、甘利自身が直接受け取った分については政治資金収支報告書に記載していることが伝えられた。一方、その後の週末を費やした調査で、秘書が受け取った500万円のうち300万円を使ってしまっていた上、フィリピンパブなどで度重なる接待を受けていたことも確認された。

 週が明けた25日、甘利は官房長官の菅義偉に自身の金銭授受は問題ないが、秘書の問題で閣僚辞任は避けられないとの意向を電話で伝えた。甘利が続投を断念した瞬間だった。甘利を擁護し続けてきた安倍も方針を転換せざるを得ない状況となった。

 辞任会見の直前、甘利は安倍に電話を入れて改めて辞意を伝えた。

「国会の状況もあり、監督責任もある。最後は自分で決めさせて下さい」

「残念ですが、あなたの意思を尊重します」

 ただ、閣僚は辞任するにしても政治資金規正法違反などで立件され、議員も辞職せざるをえなくなる事態は避けなければならなかった。それは甘利にとっても、安倍にとっても最悪のケースである。

「あの建設会社の総務担当者はその筋の人らしいね」。菅は番記者たちにこうささやいた。一連の疑惑が「罠」であるというわけだ。メディアやネット上にも、総務担当者や建設会社を問題視する情報が流れ始めた。

 甘利も辞任会見で、建設会社社長からさらに口利きをしてもらえるならば総務担当者を説き伏せて疑惑を否定するという口裏合わせを持ちかけられたことを明らかにした。安倍サイドによる「ささやかな反撃」だった。しかし、「政治とカネ」の問題による盟友の閣僚辞任という事実には変わりはなかった。

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