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赤坂太郎
2016/07/08

英EU離脱が「神風」になった自民党

キーワードは「経済の安定」。舛添問題もアベノミクス失政も吹き飛んだ

source : 文藝春秋 2016年8月号

genre : ニュース, 政治

カット・所ゆきよし

「きのう、イギリスが欧州連合(EU)からの離脱を決断した。やはり消費増税先送りの判断は正しかったのではないでしょうか」

 参院選が公示された初の週末、英国の国民投票でEU離脱が決定して金融市場が大荒れした翌日の6月25日土曜日。官房長官・菅義偉は山形県米沢市での遊説で熱弁をふるった。

 首相・安倍晋三も宮城県で「英国のEU離脱で経済にリスクを与えないか懸念している。日本はG7(主要7カ国)の議長国として国際協調して万全を期す」と訴えた。

 消費税率10%への引き上げを2年半先送りし、衆参同日選挙を見送ってまで臨んだ参院選。6月23日夜に明らかになったマスコミ各社の序盤情勢では「改憲勢力3分の2をうかがう勢い」と与党に有利な結果が出た。

 それでも野党四党が統一候補を擁立した32の1人区では弱さも感じられ、なにより「リーマン・ショック級の危機」を未然に防ぐために増税を延期した、との首相官邸の理屈に批判と疑問が高まり、安倍の演説もどこか言い訳めいた色彩もあった。

 そこに飛び込んできた英国のEU離脱の一報。6月24日、一報を聞いて「えっ!」と驚きながらも、安倍は急きょ、首相官邸で関係閣僚会議を主催して「世界経済の成長、金融市場の安定に万全を期していく」と指示を出した。選挙演説も「今、日本に求められているのは政治の安定だ。それは世界から求められている」と力強いトーンにかわった。

 菅は「国際関係の中では何が起きるか分からない。そういうリスクに対応するための政策を私たちは常日ごろからとっている」とも訴え、消費増税再延期の正当性を強調した。

 5月末の伊勢志摩サミットで、リーマン・ショック級の危機を回避するためと各国首脳に提示した「参考データ」は経産省出身の首相政務秘書官・今井尚哉が作成したものだった。今井は数カ月前から、安倍と外務省、財務省幹部によるサミット打ち合わせでも、会議を根回しする役割のシェルパが説明する国際的な経済認識についても「君たちは分かっていない」と叱責し、消費増税延期の地ならしを進めてきた。

 サミット本番ではイギリス首相、デービッド・キャメロンが「危機とまで言うのはどうか」と発言した。そのキャメロンの英国が、EU離脱で本当にリーマン・ショック級の危機をもたらしかねない皮肉。自民党幹部、政府高官からも「増税延期は正しかったと訴えられる」「リーマン・ショック級の危機回避、としたサミット文書は正しかった」との声があがった。

 日経平均株価が下落し、為替が円高にふれても、もはや「アベノミクスの失敗」ではなく、国際情勢の激変が原因となる。災い転じて福となす。選挙戦の基調が守勢から攻勢に転じた瞬間だった。

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