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連載春日太一の木曜邦画劇場

手塚作品の実写化は至難 若山“猿田彦”はお見事!――春日太一の木曜邦画劇場

『火の鳥』

2018/09/18
1978年作品(137分)/東宝/Amazon Primeで配信

 手塚治虫の漫画を映像化した作品は――こと実写の場合に顕著なのだが、あまり成功しているとは言い難い。

 多くの場合は、手塚の描いた壮大、あるいは深遠なテーマに作り手が囚われ過ぎて、手塚漫画の肝心な魅力をそぎ落としてしまっているからに他ならない。その魅力とは、一つにはあの絵特有の可愛らしさ。一つには漫画の特性を存分に活かした奔放なコマの使い方。一つには時おり挟まれるナンセンスともいえるギャグ。こうしたユーモラスさが躍動感をもって描かれていることで、いかにテーマが重苦しいものであっても、手塚作品には独特の軽妙で潤いと温かみのあるワクワク感が生まれ、読者を魅了してきた。

 が、いざ映像化作品となるとその部分がないため、ただ深刻なだけだったり、説教臭かったり――とやたら重々しい作りになってしまいがちなのだ。

 今回取り上げる実写版『火の鳥』もまた、残念ながらそんな一本になってしまった。

 原作となるのは、弥生時代を描いたシリーズ初期作品『火の鳥 黎明編』。本作を撮った市川崑監督は、アニメーター時代には手塚的な可愛げある作風の画を得意としていた。実写に転向してからも重いテーマの作品でも軽妙にユーモアを盛り込む演出をしてきた。そんな男が自ら待望した企画――にもかかわらず、やはり「手塚の壁」を突き破ることはできなかった。

 アニメの火の鳥や動物を実写と合成させるという当時では斬新な演出に挑戦してはいるものの、作品全体としては全編にわたって鈍重。役者たちはことごとく大げさなまでに生真面目な芝居をし、演出のテンポもやたら重厚感があり、とても手塚原作とも市川作品とも思えない、暗くて堅苦しい作りになっている。

 それでも、大きな見所が一つある。手塚ワールドからそのままに飛び出してきたようなキャラクターが一人だけいるのだ。その男を見ているだけで本作は楽しい。それが、ヤマタイ国の戦士・猿田彦。演じた若山富三郎が見事だった。

 たとえば、ヒミコへの滑稽なまでの従属ぶり。重傷を負った少年を助けようとする際の必死さ。その一方での、戦士として戦う際の勇ましさ。

 野蛮さと幼児性あふれる重すぎない芝居がとにかく可愛らしく温かで、ユーモアと躍動感があり、それでいて哀しさも表現していて――つまり手塚漫画の魅力が凝縮されているのである。そのため、原作そのままに巨大化した特殊メイクの鼻も、違和感なく受け止めることができた。

 これから手塚原作の映像化に関わる作り手や役者は、本作での若山のアプローチを是非とも参考にしてほしい。