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医学部ランナー・広田有紀が、本気で東京五輪を目指す理由

彼女が日本中距離界のトップランナーになれた理由とは

2018/09/16
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学生たちの“学び”への意欲に蓋をしてしまう

「一意専心」という言葉に代表されるように、日本では今でもまだ、「1つのことに集中するのが素晴らしい」という考えが根強くあるように思う。

「東大や医学部に行きたいなら、部活なんてやっている時間はない」

「甲子園やインターハイで活躍できるなら、勉強は少しくらい疎かにしても良い」

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 そう考える教員や指導者も、数多くいるのが現実だろう。ただ、本当に1つのことを突き詰めることだけが、その道を広げて行くことになるのだろうか? 広田のように、それぞれのフィールドで多くを吸収したからこそ、トップレベルにまでたどり着けるケースもあるはずだ。何より若い学生たちの“学び”への意欲に蓋をしてしまうことは、とてももったいないことのように思えてならない。

 

「足りていない部分は無尽蔵に見つかるんですよ」

 冒頭の日本インカレの決勝レース――。

 広田はラスト30mまで先頭を走っていたものの、最後の最後、アジア大会代表の塩見綾乃(立命館大)に差しきられて、2位に終わった。

「やっぱり1位を獲らないと気持ちが全然違うなと走り終わって思いました。正直、ラスト100mで自分がトップにいることがわかって、『やった、1位になれる!』という高揚感で浮足立ってしまって(笑)。高校以来の日本一の感動を味わいたかったんですけど……もうちょっと冷静に走るレースがしたいですね」

1周400mのトラックを駆ける広田(写真右から3人目)。決勝のタイムは2分6秒12だった ©EKIDEN NEWS

 悔しさはもちろんあるという。

 だが、そういって笑う広田の表情は、充実感に満ち溢れていた。

 順当にいけば、広田は2020年の2月、医師国家試験に挑戦することになる。そして、その年の8月には大舞台が待っている。

「いまの陸上に対するモチベーションの1つに、東京五輪があるのは間違いないです。新しいメニューをやったり、試行錯誤を続ける中で、足りていない部分は無尽蔵に見つかるんですよ(笑)。それを見つけるたびに『まだこれが足りない!』って。『完璧にやりきった』と思えた大会がまだないんです。練習でのタイムは良くなっているので、まだまだ伸び代は十分あると思っています」

 

写真=橋本篤/文藝春秋

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