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大江千里58歳「僕の日本でのピークは、91年『格好悪いふられ方』のリリース直前だった」

大江千里インタビュー #1

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みんなホットでドキドキしてた80年代

速水 最初にニューヨークへ行った時は、どういう状況だったんですか?

大江 最初は1989年で、フジテレビの『君が嘘をついた』というドラマに出た頃です。

おぐら 野島伸司脚本の月9ですね。

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大江 共演した鈴木保奈美ちゃんとか布施博さんとか、いろんな人が横浜文化体育館のクリスマスコンサートを観に来てくれて。とにかくみんなホットでドキドキしてた。

速水 日本はバブル絶好調の時代で。

大江 はい。そして無事にコンサートが成功した翌日、12月25日ですよ。夜が明けて、初めてのニューヨークに一人で行ったんです。俺って忙しいな~なんて思いながら、この時はまだ旅行で。きっと5番街はイルミネーションでキラキラしていて、恋人たちが肩を寄せ合って歩いてるんだろうな~と。そうしたら、着いた途端に気温はマイナス15度とかで、寒すぎるうえに店はどこも閉まってる。アメリカにとってクリスマスは、家族の日なんですよね。

おぐら 日本でいうお正月の三が日みたいな。

 

大江 それで、てくてく歩いていたら、1カ所だけキラキラ光ってるところがあって、JALの鶴で作られた見事なクリスマスツリーだった。僕はそれにすごく惹かれてね。

速水 日本の企業だけが浮かれていたと。

大江 そうなのかな、とにかく1カ所だけショーウィンドウに目立ってたんです。僕としてはニューヨークに来てまでも、自分が日本的なモチーフの美しさに惹かれるんだと思った。身を刺すような寒さと相まって、なんかカルチャーショックな気分でしたよ。今の自分を象徴してるなぁって。そのあと10日間の滞在で友達ができて、その人の家に転がり込んじゃった。しかも、その家の住人はロンドンへ仕事に行くと言って鍵を僕に預けて、その間に同じアパートに住んでいたビースティ・ボーイズのメンバーが引っ越しするからっていうんで、僕も一緒になってレコードを運んだりして。

おぐら えぇ~! 1989年のニューヨークで、大江千里がビースティ・ボーイズに出会った……。

 

大江 そのニューヨークの友達のアパートで、小さな窓を開けて、降っている雪を眺めながらピアノで作ったのが『APOLLO』という曲です。その時、絶対ここに帰ってきてレコーディングしようと決めて。だからアルバムの『APOLLO』はニューヨークでレコーディングしたんです。

速水 まさにトレンディドラマみたいな展開ですね。

大江 そんなアルバムで初めてオリコン1位をとったので、まぁ感慨深いですよね。そこで一気にアメリカに渡るという選択肢もあったんですけど、結局はニューヨークにアパートだけ借りて、日本と行ったり来たりするようになりました。