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佐久間 文子
2016/05/17

【著者は語る】渡るか渡らないか、自分で選択するということ

『橋を渡る』 (吉田修一 著)

source : 文藝春秋 2016年6月号

genre : エンタメ, 読書

吉田修一氏

いま世の中を動かしているような感のある「週刊文春」、そこでの連載という条件を最大限に活かし、世上を騒がせたニュースも小説に取り入れた。

「ニュースそのものを描く、というよりニュースを使って登場人物たちを描ければ、と思いました。そのつど、起きたことを書いていますが、唯一、最初から頭にあったのが東京都議会のセクハラヤジ問題です。あれだけはっきり聞こえたのに『確認できないし申し出た人もいない』って調査結果が出たときのぞわぞわっとした感覚が残っていました」

 書きながら、登場人物とともに一喜一憂していたという。第一章で、不倫中の明良のデートがうまくいかなければがっくりし、第二章の「週刊文春」のクレーマーと化した篤子を書いていたときは、雑誌の発売日が待ち遠しく、スクープがなければ腹が立った。

 章ごとに、季節と視点人物が変わる。当初の構想では第一章で東京の町の一つを、第二章で東京全体を、第三章で日本、第四章で世界に空間を広げて描くつもりだったが途中で軌道を大幅に修正した。

「第二章で『東京』を書きながら、『町』との違いを出すのが難しいな…と思っているとき、空間ではなく時間を広げるイメージが出てきたんです。ちょうど戦後70年を迎える時期で、70年前があるなら70年後もあるってことだな、とふと気づいて」

 第四章で描かれる70年後の日本では、人々のストレスや欲望を受け止める、「サイン」という、吉田さんには珍しい、SF的な存在が出てくる。

「SFはどちらかというと苦手で、あまり読んでいません。サインは、何年か前にiPS細胞の山中伸弥教授がどなたかと対談した記事で、血液から精子と卵子もつくれて子供もできる、という話をしていたのをなぜか破いて取ってあって、そこから発想したものです」

 両方の世界を知る登場人物が、70年後の日本をユートピアでもディストピアでもないと口にする。70年後の日本を、吉田さんは、愛読している70年前に書かれた小説をいま読む感覚で描いたという。本書の「2014年」になされた選択の一つひとつが70年後の世界をかたちづくる要素につながるのも興味深い。

「『橋を渡る』というタイトルにしたとき、渡るか渡らないか選ぶ、ということをたぶん考えていたんでしょうね。間違えたとしても自分で選択する、というのが大事で、贅沢なことなんだと思います」

橋を渡る

吉田 修一(著)

文藝春秋
2016年3月19日 発売

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