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南北事実上の終戦へ 金正恩が「米朝終戦宣言」を熱望する理由

金正恩は“GDP2000億ドルの国のトップ”の誘惑に勝てない

2018/09/21
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 北朝鮮が、寧辺の核施設を廃棄するという。

 寧辺といえば、北朝鮮の核の心臓部。

 ただし、「米国の相応処置」という条件つきだ。

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ソウル駅で南北会談の報道に見入る人々(筆者提供)

北朝鮮にとって喉から手が出るほど欲しい「米国との終戦宣言」

「条件とは、『終戦宣言』にほかなりません」(韓国全国紙記者)

 9月19日、南北が「9月平壌共同宣言」に署名し、合意内容を発表した。世界が注目した非核化について具体的な内容は発表にはなかったが、それでも、トランプ米大統領はすかさず、「非常に興奮している」とツイートした。

 韓国の北朝鮮専門家の話。

「寧辺の核施設の廃棄についてはすでに米国に伝えていたといわれます。

 北朝鮮はこれまで自分たちが行ってきたミサイルエンジン実験台廃棄や米兵の遺骨引き渡しに対する米国からの見返り、つまり米国との終戦宣言がないと主張してきました。北朝鮮が終戦宣言にこだわるのは、まず、軍事的脅威を取り除きたいためです。

「非常に興奮している」とツイートしたトランプ大統領 ©JMPA

 北朝鮮は停戦協定が結ばれてから(1953年)これまで65年間、米国からの核攻撃の恐怖の中で生きてきました。

 南北では今回の合意により終戦宣言をしましたが、これでは半分。もう半分の当事者は米国と北朝鮮ですから、米朝で終戦宣言がされれば、平和協定へと進み、北朝鮮はすべての軍事的攻撃に脅かされることはなくなると考えているのです。

 金正恩労働党委員長は9月初めにトランプ米大統領宛てに親書を送りましたが、終戦宣言が実現しないのはトランプ大統領の周りにいるタカ派のせいだと読み、アナタが決断してくれと直談判をしたわけです」

 北朝鮮が言う、「終戦宣言後に非核化」を巡っては、韓国でも見方はまっぷたつ。保守派は、「終戦宣言は、38度線の非武装地帯に駐屯している国連軍の解体につながり、さらに駐韓米軍の正当性が崩れ、撤退につながる」と警鐘を鳴らす。一方、進歩派は、「終戦宣言は、あくまでも米国と北朝鮮が敵対行為(軍事的行為)を行わないという第一歩であり当然、米国が認めるべき政治的な宣言」と北朝鮮の主張に賛同している。

駐韓米軍と国連軍はどうなる?

 前出の専門家が続ける。

「駐韓米軍については、金正恩委員長は、親書でも韓国に駐屯し続けてもらって構わないという意志を明らかにしています。故金正日書記も2000年の金大中大統領(当時)との南北首脳会談で同じ見解を示していました。

 北朝鮮は中国と近いと思われがちですが、北朝鮮は中国のことを信用はしていません。北朝鮮にとって終戦宣言が行われた後の駐韓米軍は、自分たちが中国にのみこまれないためにも重しとして必要なのです。

 国連軍については、関係国との話し合いや調整など、解体するにしても、それまで時間がかかる。今、論議するようなことではないと考えます」

 韓国では、米国が北朝鮮のこの呼びかけに応じる番だとする声も上がっているが、終戦宣言後、北朝鮮が果たして実際に非核化に着手するかどうか、疑念は拭えない。