昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

ハーフがいる風景 #1――芸能人・スポーツ選手の本音

日本で彼らが活躍する理由とは?

2018/09/23

source : 文藝春秋 2016年6月号

genre : ニュース, 社会, スポーツ, 芸能, 国際

女子テニスの大坂なおみ選手の活躍によって、複数のルーツを持つ「ハーフ」の存在に改めて注目が集まっています。なぜハーフの芸能人やスポーツ選手は増えたのか。どのようなアイデンティティを持っているのか。ノンフィクションライターの三山喬氏が、彼らの本音を引き出しました。

なお、記事中の年齢や日付、肩書きなどは掲載時のものです。

(出典:文藝春秋2016年6月号 全2回の1回目/#2へ続く)

◆ ◆ ◆

「きょうは緊張しますね、いじり方を間違えると大変なことになる」

 日曜朝のトークバラエティ番組『ワイドナショー』(フジ系)のオープニング。ゲストの武田鉄矢が、共演者の顔ぶれにそう漏らすと、メイン・コメンテーターの松本人志も「けっこうデリケートですよね」と相槌を打った。

 ふたりの間に座るのは、日米ハーフのタレント・ウエンツ瑛士と墨・西・日クォーターでニューハーフモデルのIVAN(アイヴァン)。人種や同性愛に絡む微妙な冗談には、差別と批判されかねないリスクがある、というわけだ。

ウエンツ瑛士 ©日刊スポーツ

「(ある番組で黒人タレントの)オスマン・サンコンさんが冗談で『ボク、きょう真っ青でしょ?』って言ったら、みんな(リアクションに困り)下を向いちゃった」

 武田の語る逸話に、笑いが湧く。

 この日のトークテーマには、「アメリカでは奴隷が大統領になった」という丸山和也・参議院議員の失言や、アカデミー賞での黒人差別論争もあった。発言を求められたウエンツは「日本では、黒人白人の差別はあまり感じません。ただ、こういう顔で生まれるとどうしても目立つ。目立つと叩かれる。昔はそうでした」と、自身の実感を説明した。

 欧米人と見紛う容姿でありながら、ウエンツは日本語しか話せない。そんなツッコミで話の腰を折られると、今度は一転して「小学校時代、英検の試験で部屋に入ったら(自分を見た面接担当者が驚き)、エエッてなってた」と“笑える体験談”で切り返した。

ウエンツの告白

 別番組への出演を終えたウエンツを、テレビ局に訪ねた。今日の芸能界、ハーフタレント全盛の現状を切り拓いたひとりとして、話を聞くためだ。

 国内の芸能界にはもちろん、古くは歌手のアイ・ジョージやアイドルのゴールデンハーフなど、昭和期から数々のハーフがいた。それでも今日ほど、“外国人顔”でカタカナ名の出演者が各番組を賑わす状況は、これまでにはなかった。

 ローラ、SHELLY、ダレノガレ明美、ホラン千秋、マギー、藤田ニコル、ユージ、JOY、トリンドル玲奈、滝川クリステル……それこそ枚挙にいとまがない。

 以前は、こうした出演者を「一番組にひとりまで」とする不文律、“ハーフ枠”も存在したようだが、そんな制約も薄れつつあるという。

 中でも先駆者とされるのが、不倫騒動で休業中のベッキーと現在30歳のウエンツだ。

 幼少期からNHK教育『天才てれびくん』などに出演。小池徹平とのデュオ「WaT」(今年2月に解散)で音楽活動をする傍ら、実写版映画『ゲゲゲの鬼太郎』で主人公・鬼太郎役を演じるなど、俳優、歌手、バラエティタレントとしてマルチな活躍を続けている。

「ハーフの同業者と会う機会は、24、5歳までほぼ皆無。番組では一緒になりにくいから、と1年前、『ハーフ会』(という親睦会)ができ、そのころからですね。でもボク自身は、そういった“くくり”はあまり好きじゃない。いじめに悩むハーフの子を勇気づけるとか、そんな効果があれば別ですけど」

 容姿ゆえの制約は、早くから受け入れてきた。NHK大河ドラマ『利家とまつ』では、10代で森蘭丸を演じたが、「あの時は、髪や目を黒くして“臭い”を消すことが大前提でした。特殊な役柄だし、仕事の枠が広がった、とは思いませんでした」と冷静に振り返る。

 その一方、バラエティ番組に関しては、繰り返し録画をチェックして“立ち居振る舞い”の工夫を重ねたという。

「『これはだめ』『横柄に見える』と、事務所の人に教えてもらいながら、所作や受け答えを考えていきました。ボクみたいな顔だと、どうしても構えられる。武田鉄矢さんの言うサンコンさんの話と同じです。人種的なことに触れていいものかどうか、共演者も戸惑うんです」