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ハーフがいる風景 #2――多様なルーツを背負う新世代

ムスリム、南米系……。「内なる国際化」と葛藤する

2018/09/23

source : 文藝春秋 2016年7月号

genre : ニュース, 社会, 国際, ライフスタイル

女子テニスの大坂なおみ選手の活躍によって、複数のルーツを持つ「ハーフ」の存在に改めて注目が集まっています。なぜハーフの芸能人やスポーツ選手は増えたのか。どのようなアイデンティティを持っているのか。ノンフィクションライターの三山喬氏が、彼らの本音を引き出しました。

なお、記事中の年齢や日付、肩書きなどは掲載時のものです。

(出典:文藝春秋2016年7月号 全2回の2回目/#1より続く)

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 朗々とした祈りの声が廊下に漏れ聞こえる。午後1時前、東京都豊島区の「大塚マスジド」では金曜日の集団礼拝が始まっていた。マスジドはモスクを意味するアラビア語だ。

 男性用礼拝室は、小さなビルの2階から4階を占める。中東系、南アジア系、アフリカ系……、絨毯の敷かれた各部屋で、さまざまな人種が祈りを捧げている。インドネシア人を母に持つハーフ・泉澤大地も、アッラーへの帰依を一心に祈った。

泉澤大地(筆者撮影)

「所作は見よう見まねでしたが、精神的な充実感はありました」

 19歳の新規入信者は上気した表情で、初めて集団礼拝に参加した感想を語った。

 現在の20代半ばからその数が倍増するハーフの新世代。前号では芸能人やスポーツ選手の台頭に注目したが、今回は市井の若者に目を移し、バブル期以降に生まれた彼らの内面を読み解きたい。

 1990年前後の日本には、空前の好況に多種多様な国から労働者が集まり、さまざまに新奇な光景が生まれた。イスラム教徒の大量出現もそのひとつだ。

 当時の上野公園は、日曜日ごとに膨大なイラン人で埋め尽くされ、埼玉県川口市の鋳物産業が、パキスタン人やバングラデシュ人に支えられる状況も、メディアで頻繁に報じられた。各地のムスリムは資金を出し合って、いくつものモスクを設立していった。国際結婚が増えるにつれ、モスクには子どもの声も響くようになった。

 やがてハーフの若者は、日本の一般的な生活習慣と親から伝えられる信仰の狭間に立たされる。1日5回の礼拝や豚肉・アルコールの摂取禁止など、イスラムにはいくつもの戒律があるからだ。ただ、どの程度守るかは、親世代にも個人差があり、中には信仰を失ったかのように、戒律を顧みない人もいるという。

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