文春オンライン

根強い人気なぜ? 「親指シフト」販売店に聞いてみた

こだわりの強いユーザーの声と向き合って

note

「正しい親指シフト」がそれぞれ違う

――ニーズが千差万別ということは、ただでさえマイナーな規格の統一化という意味では不利ですね。

池田 そうですね。ユーザーの中には「普及活動」に熱心な方もいますが、みなさんがイメージしている「正しい親指シフト」がそれぞれ違うので、統一化はなかなか難しいのが現状です。ネットの記事を見ても、少しずつ違うことが書いてありますからね。

――いまだにワープロ機を愛用されている方もいるようですね。

ADVERTISEMENT

池田 作家の先生には、いらっしゃるようですね。さすがに部品が入手できなくなったので、うちでは修理のご依頼はお受けできなくなってしまいましたが……。

――ワープロ専用機ではできたけど、PCではできない動作はあるのでしょうか。

池田 基本的にはありません。最終的には慣れの問題だと思います。

カタログには、いまだに「親指シフト」の文字が…… ©文藝春秋

ATOKとは真逆の発想で進化したJapanist

――OASYSの生産は、惜しまれつつも2000年に終了しました。

池田 各社とも同じような時期に販売終了になりましたね。決して擁護するわけではありませんが、ハード、ソフトともに現在に至るまでワープロ機と同等の環境を提供しているのは富士通だけ。富士通の法人向けノートPCのカタログには、いまだにカスタム項目に「親指シフト」の記載があります。そして、IMEに相当する日本語変換ソフトJapanist、ワードに相当するワープロソフトOASYSがそれぞれ販売されています。いずれも最新のWindows OSに対応しています。もちろん、親指シフトキーボードを使いながら、ATOKと一太郎を使っている方もいます。

 Japanistが面白いのは、ATOKとは真逆の発想で進化している点です。ATOKは長い文章を一発で変換する能力を高めてきましたが、親指シフトキーボードは「変換」「無変換」キーが「親指」キーの真下にあることもあって、わりと文節を細かく区切って変換することが多いのです。Japanistにも予測変換機能がありますが、OFFに設定している方も多いようです。

「アクセス」の店内に並ぶ、日本語変換ソフトJapanist 10とワープロソフトOASYS V10のパッケージ ©文藝春秋

――親指シフトの新規ユーザーはいるのでしょうか。

池田 たまにいますが、わざわざ当店に来られる方は少ないですね。ネット上で読売オンラインが親指シフトの記事を出したり、経済評論家の勝間和代さんがブログで取り上げたりしているので、一定数は興味を持っている層はいるようです。新しい流れのユーザーが、どこまで定着するかは未知数ですが……。

 ネックになるのは価格でしょうか。量販されているPCの付属キーボードには廉価なものが使用されているケースが多いのですが、その相場感に慣れてしまうと、親指シフト仕様のキーボードはオーダーメイドに近いので、どうしても単価は高くなってしまう。種類にもよりますが、1万5000円~3万円です。