文春オンライン

紙面で追う 総裁選「カツカレー食い逃げ事件」が大事件になるまで

笑うに笑えなくなってきた、その「4皿」のゆくえ

2018/09/28
note

 自民党の総裁選が終わったが、新聞の読み比べは実は「そのあと」のほうが面白い。

 たとえばこれ。総裁選2日後の産経新聞の名物コラム「産経抄」(9月22日)。

 出だしは「職業柄、違和感を覚える言葉遣いを見ると、すぐに辞書を引く。」

ADVERTISEMENT

毎日新聞の言葉遣いに噛み付いた「産経抄」

 ドキドキする。産経抄が何か不満そうなのである。ワクワクする。原因は何か?

《553票対254票と、安倍首相に約300票差をつけられた石破氏について、マスコミ報道では「善戦」という表現が強調されていた》

©AFLO

 待ってました! 産経抄は石破氏を「善戦」と書いた朝日や毎日に納得がいかないのである。小言一発。そして、

《広辞苑によると、善戦とは「実力を出し尽くしてよく戦うこと。多く敗者の戦いぶりにいう」とある。確かによく戦ったとはいえようが、「国会議員票、党員票とも善戦」(21日付毎日新聞朝刊)とまで書くのはどうか。国会議員票の8割強が安倍首相に回ったのに無理があろう》

 わざわざ広辞苑を調べて説明してくれた。産経抄は読売の表現にも言及。

《かと思うと、読売新聞は「安倍首相の圧勝で終わった」と記し、石破氏に関しては「健闘」の表記で統一していた。健闘は、同じく広辞苑では「よくがんばってたたかうこと。屈せずに努力すること」の意とされる》

読売は石破氏を「善戦」ではなく「健闘」という表記で統一

 そうか、読売は石破氏を「善戦」ではなく「健闘」という表記で統一していたのか。こちらが読み比べなくても産経抄が教えてくれたのだ。ありがたい。

©AFLO

 最後は、

《21日付朝日新聞朝刊は1面で「『圧勝』できず政権運営に影」、2面で「首相 崩れた『圧勝』」と見出しを付けていた。だが、安倍首相は全体で7割弱の票を確保したのだから、読売のように圧勝だと認める方が素直な見方だろう。》

 読売の表現に納得して終わる産経抄。

 私は、安倍政権を野球場に例えるなら「安倍スタジアム」の一塁側(ホーム)には読売、産経新聞がいて、三塁側(ビジター)には朝日、毎日、東京新聞がいると考える。そう想像すると新聞はわかりやすく楽しく読める。

 それでいくと今回の石破氏を「善戦」と呼ぶのは「予想以上に頑張った、素晴らしい内容だった」というビジター側のニュアンスがあり、「健闘」と呼ぶのは「弱い割にはよく頑張ったな、うん」というホーム側の余裕さを出せる。そう考えれば読売が石破氏を「健闘」というのも理解できる。