昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

“キーン・マジック”で描く天才歌人の生涯

『石川啄木』 (ドナルド・キーン 著/角地幸男 訳)――鼎談書評

source : 文藝春秋 2016年6月号

genre : エンタメ, 読書

 

阿刀田 日本文学は控えめに見ても、ノーベル文学賞受賞者が20人いても良いくらい優れています。しかし、日本語という特殊言語ゆえ世界ではあまり理解されていないのが現状です。そんな中ドナルド・キーンさんのような世界に影響力のある日本文学者が、おそらく日本で最も人気のある歌人・石川啄木の生涯を紹介することは、我々にとって大いなる喜びではないでしょうか。

 啄木の短歌は、文語的表現で書かれながら、内容は極めて現代的。人生の1秒一瞬を、一つの心理で捉えることができるという点で、啄木は生まれながらにして言葉の天才でした。盛岡尋常中学を中退し、貧乏と借金、流浪の生活を繰り返しながら創作し続ける――。1人の天才が、大変に強い自我を持って生きたことが本書からはよく分かります。

片山 確かに天才ですね。歌壇的に言うと啄木はいちおう『明星』ですが、与謝野鉄幹・晶子みたいに理想や情念に傾くのでもなく、正岡子規の信奉者たちの「アララギ派」のように写生に徹するのでもない。〈ふるさとの訛なつかし 停車場の人ごみの中に そを聴きにゆく〉なんて情念と写生とアクションの三位一体です。天才的に“変な短歌”であり、戦後の鬼才、寺山修司の短歌も啄木を超えていないように思えます。

山内 啄木を構成する大きなファクターは「北海道」。この本でも北海道での生活は事細かに描かれます。

 私はまさに札幌生まれ小樽育ちですから、幼少期から、非常に近しく感じていたのです。例えば、歌集『一握の砂』に収められている〈かなしきは小樽の町よ 歌ふことなき人人の 声の荒さよ〉という短歌。友人たちと「俺たち、言葉が荒いんだな」と言って笑い合った記憶もある(笑)。一方、札幌は〈秋風の郷なり、しめやかなる恋の多くありさうなる都〉。啄木は自分が歩いた街を本当に良く見ている。その観察眼には地元人としても感心させられますね。