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同期入団の福留孝介と岩瀬仁紀 最後の対戦に抱く期待

文春野球コラム ペナントレース2018

2018/10/07

 クローゼットからそっとジャケットを手に取る。一歩外に出ると金木犀が自分が主役と言わんばかりに香りを放っている。「冷えてきたな」。1年で最も過ごしやすいこのさわやかな時期が私は大嫌いです。

 連日スポーツ紙に踊る文字。

“戦力外” “自由契約” “引退”

 どの言葉もとても寂しい言葉です。

 9月19日。私は今シーズン最後の鳴尾浜での2軍の試合に訪れました。チームはウエスタンリーグ優勝がかかっており、少しの緊張感もありながら変わらず活気にあふれていました。しかし私はその雰囲気とは裏腹に、突然寂寥感に襲われることになります。

「鳴尾浜での縦じま姿は今日で最後かも!」

 ある選手が無邪気な笑顔で放った言葉。一瞬ドキッとしてしまいました。とっさに「大丈夫でしょ!」と返したものの、動揺した表情は悟られたくありませんでした。正直数字だけ見ると戦力外通告を受ける可能性はゼロではないなと思いました。本人は覚悟を決めているようでしたが、さわやかな秋空の下、私の気持ちは一気に曇りました。

近年の引退試合への違和感

『プロ野球選手』

 一見華やかにもみえる“職業”ですが、これほどまでに残酷な職業もないと思います。一生懸命に仕事(野球)をしているにも関わらず、そのほとんどがいわゆる「クビ」を宣告されます。企業でいう定年退職、「引退」できる選手は一握り、いや一つまみくらいしかいないからです。

 会社という組織で考えた場合、仕事ができるできないは別にして、一生懸命仕事に取り組んでいる社員がクビにされることはほとんどないと思います。解雇に至る場合は何かトラブルを起こしてしまったり、粗相があることが多いのではないでしょうか。そりゃ、プロ野球選手は高額な年俸をもらっているのだから厳しくて当たり前だという声もあるかもしれません。結果の世界、数字を残せなくなれば終わりです。この時期になるとマスコミの間でも誰が戦力外になりそうか……そんな話題も多くなるのが悲しい現実です。

 私は会社員ではなくフリーランスのアナウンサーとして仕事をしている身。プロ野球選手と一緒にしては失礼も承知なのですが、大きな失敗をしてしまうともしかすると明日の仕事がなくなるかもしれない、急に生活ができなくなる可能性だってあります。放送局では番組の改編期というものがあり、この10月がまさにその季節。8月下旬頃から自分は降板させられるのかな……なんてそわそわして、もし降板となったらどんなアルバイトをしようだとかそこまで考えることも。大げさではなく生きた心地がしません。と、私のことはいいのですが、少なからず1日1日が勝負、1球、1打席に生活がかかっている世界なのです。

 その中で自ら引き際を決め、「引退」できる選手というのは本当に一流選手。しかし、最近引退試合に少し違和感を覚えます。

 クライマックスシリーズが導入されて以降、優勝チームが決まった後もCS進出の残り2枠をかけた戦いがシーズン終了ギリギリまで行われるようになったプロ野球。優勝はなくなっても、大逆転日本一の可能性が残されており、ファンはそれを楽しみに最後まで一喜一憂しながら楽しむことができます。いち野球ファンとしては大賛成! しかしそれ故に引退試合が引退試合でなくなっている気がするのです。自ら「引退できる」選手なのですから、最後は良い姿を残して終わってほしい。これもファン心理ではないでしょうか。