昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

ドストエフスキーを彷彿とさせる“収容所文学”

『グアンタナモ収容所 地獄からの手記』 (モハメドゥ・ウルド・スラヒ、ラリー・シームズ 編/中島由華 訳)――鼎談書評

source : 文藝春秋 2016年3月号

genre : エンタメ, 読書

 

山内 江戸・小伝馬町の牢獄の悲惨さにも匹敵する酷い所業が、世界最大の民主主義国家で行われている――。本書は、アメリカ・グアンタナモ収容所に今もなお収監されているモーリタニア人スラヒが2005年の夏から秋にかけて獄中で書いた手記です。彼はアフガニスタンでアルカイダ関係者との接触があった等の理由により、テロ未遂事件の容疑者としてCIA(中央情報局)に拘束され、ヨルダンを経てグアンタナモに連行される。そして事件への関与を裏付ける証拠がないにもかかわらず、スラヒは拷問に近い取り調べを受ける。本書にはその様子が事細かに綴られています。

 グアンタナモはキューバにありますがアメリカの永久租借地なので連邦法は適用されません。アメリカはそこにテロ容疑者を集め、容赦ない責め問いを続けるわけです。

片山 世の中には、収容所や監獄で行われる性的で暴力的な行いを描く“C級映画”は山ほどありますが、本書に描かれているグアンタナモ収容所の現状はそのまんま。看守たちに〈今日はアメリカ流のすばらしいセックスを教えてやる。立て!〉と言われ、〈自尊心を傷つけるようなやり方で三人でのセックスを強要された〉……。これが2000年代の世界で起こった紛れもない現実だというのは衝撃的です。

 本書の原書は、アメリカではどれくらい読まれているんですか?

キャンベル 刊行は約1年前ですが、ほとんどの新聞で書評され、昨年最も話題になった本と言っても過言ではありません。それほど読まれています。

 僕は原書の刊行後にすぐ読みましたが、スラヒが英語で手記を書くことがいかに悲壮なことかは特筆すべき事項でしょう。彼にとって英語は第四言語。ですから、彼は最初に飛行機で連行される時、シートベルトがキツいことを訴える〈Too tight〉という言葉すら出てこなかった。そのレベルから、想像を絶する拷問を受けながら生き抜くために身に付けた言語なのです。できれば彼が書いた英語を一頁でも良いから読んでほしい。ところどころ文法の間違いがそのまま残されているのですが、その中にこそ彼の必死さや伝えきれないもどかしさがある。

はてなブックマークに追加