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連載地方は消滅しない

葉上 太郎
2016/11/22

地方は消滅しない――秋田県秋田市の場合

商店街スゴロクで街を知る、人を知る

source : 文藝春秋 2016年12月号

genre : ニュース, 社会, 経済

イラストレーション:溝川なつみ

「かわいいっ。お母さんはイヤリングを見ているから、その間にサイコロを振ってきて」。四十代の母親が目を輝かせてショーケースをのぞき込む。「えーっ、ママが似合うのはもっと安いのだよ」。自分より宝石を優先された小学四年生の息子は、少しむくれて意地悪を言った。

 十月二十二日土曜日、秋田市の大町商店街にある宝飾店「時幸堂(ジコードウ)」。母子がはしゃぎながら店内を見て回っていた。買いに来たわけではない。大町と通町の二商店街を中心に催された「商店街スゴロク」というイベントに参加しているのだ。

 両商店街は同市中心部の千秋公園の近くにある。秋田藩主の居城が置かれた公園だ。店主らは「郊外のショッピングセンターに客を奪われ、土日は一段と客足が遠のく」と嘆くが、この日は七十二組、百人以上が訪れた。黄色いスゴロクの参加用紙を手にした親子連れや子供達で、街に黄色い花が咲いたように見えた。

 商店街スゴロクのルールは簡単だ。五十ほどの参加店をマス目に見立て、歩いて回る。まず商店街の一角に集まって受け付けをし、大きなサイコロを投げる。黄色い用紙には参加店が数珠つなぎになった地図が描かれており、マス目に従って出た数だけ進む。その店を訪れて、今度は店内で小さなサイコロを振る。そしてまた出た数だけ進むのだ。これを繰り返して両商店街を巡り、スタート地点に戻って来る。最後は抽選会で参加店提供の景品が当たる。

サイコロを振ってスタート(通町商店街)

 多くの要素が詰まった企画だ。まず、スゴロクには単純な面白さがある。だから子供の参加者が多い。

 近年流行している街歩きにもつながる。「店の中にまで入るので、どんな人が経営しているか興味津々です。いい人だったら通いたい」と小学四年生の娘と参加した三十六歳の母親が言う。両商店街は個性豊かな店主が多くて市内では有名だから、ポケモンを探して歩く「ポケモンGO」より面白いかもしれない。

 さらに各店舗ではロールプレイングゲームよろしく条件をクリアしなければ次に進めない。「香り当てクイズに挑戦する」(アロマ&ネイル「オレンジ・ツリー」)▽「店頭のタヌキの置物の腹を触る」(「千釜(ちがま)陶器店」)▽「自転車用ヘルメットを着用して記念撮影する」(サイクルショップ「タカハシ」)▽「一番高い納豆を探す」(納豆専門店「二代目福治郎」)などという「指示」があらかじめ決められているのだ。店の「売り」を感じてもらえるような「指示」が多く、冒頭の母子が訪れた時幸堂は「自分の顔に合うイヤリングを探してみる」だった。

「柿を特価百円で買う」といったお金のかかる「指示」もある。このため参加料は五百円で、六百円分の買い物券が渡される。もちろん参加店での買い物にも使える。

 二〇一〇年から年に四回ペースで開かれており、もう二十八回目になる。常連もいて、述べ参加人数は二千人ほどになる計算だ。時幸堂で会った母子は「五回目です。もう楽しくて楽しくて」と口々に言う。「買い物は車でスーパーに行くから、商店街は歩きません。でも、スゴロクだと宝飾店のように普段入らない店に入れるでしょう。『指示』も面白いですよね。歩くので健康にもいい。だから友達を誘って参加しているんです」と息を弾ませて次の店を目指して行った。

 簡単だから、どこでもやっていそうな催しだが、発祥は両商店街だ。そして近年、首都圏や九州地区など全国へ急速に広まりつつある。なぜなのか。それは従来のイベントの常識を覆すような仕掛けがあるからだ。

 発案し、主催しているのは同市議の武内伸文さん(四十四歳)が代表を務める市民団体「SiNG」だ。自転車を動力にしたベロタクシー運行など様々な活動を行っている。

「商店街でコンサートや祭をしても、賑わうのは会場や通りだけで、店には人が入って来ず、逆に売り上げが落ちてしまうという話を聞きました。街は踊れど、店は踊らず。ならば店の本業を伸ばす催しが出来ないかと考えたのです。サイコロの目によって好もうが好むまいが半強制的に店に入ってもらい、店主らと交流する機会が作れたら、街の魅力を発見するきっかけにもなると発想しました」と武内さんは説明する。

 だが、そこに至るには、武内さんの人生を変える出来事があった。

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