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2018/10/09

 一方、『勧進帳』では、幸四郎の弁慶、白鸚の富樫、染五郎の義経と、三代が顔を揃える。染五郎の義経は、今年1月の歌舞伎座以来2度目となる。このときは大叔父の中村吉右衛門が富樫を務めた。染五郎の、絵巻物から抜け出したような現実離れした美しさに、会場じゅうが息を呑んだ。しかし、染五郎は自身に手厳しい。

──お祖父さま(白鸚)はこれまで弁慶を1100回以上演じてこられました。高麗屋にとって『勧進帳』は特別な演目ですが、1月の義経でのデビューの手ごたえはいかがでしたか。

染五郎 一番難しいのは、発声でした。義経は高い声で台詞を言わなくてはいけないのですが、声変わりの最中でうまく声が出せなくて。

──客席から見る限り、そのような気配はまったく感じさせない堂々たる義経でしたが……最初の出で、花道で後ろを振り返る場面は、客席の視線がすべて義経に集まるところですね。

染五郎 はい、緊張しすぎて、歌舞伎座初日前にはご飯が食べられなくなるくらいでした。その花道で振り返る所作も、大口袴(おおぐちばかま)という能の衣裳を着けているので、体の角度や足の開き具合が難しく、ちっとも満足のいく出来ではありませんでした。今まで客席から見ていた時は、ちょっと振り返るくらいかな、と思っていましたが、思った以上に足を割らなくては形にならないんです。

 お家によっても型も違うのですが、この場面の義経は上の景色を仰ぎ見ているのだと思っていたのですが、そうではなく、今まで通って来た道を振り返って、弁慶や四天王がちゃんと来ているか確かめているのだということも、教えていただいて初めて知りました。吉右衛門のおじさまは、揚幕(花道の突き当りにかかっている幕)を見るので、上を見上げないんです。そうしたことも、教えていただいてから映像を見直すと、新しい発見があります。

義経を演じながら『サイレントマジョリティー』を毎日聴いていた

──謡や浄瑠璃には、「うみじ」という発声法があります(子音のあとの母音を伸ばすことで台詞がきれいに聞こえ、例えば「いかに」という台詞は「いかにぃ」と発声する)。現在、声変わりの最中とのことですが、「うみじ」をしっかりと意識した、たしかな発声でした。

染五郎 声変わりのことは、父から「自分も他の役者さんも通って来た道だから、病気ではないので安心してやりなさい」と言われました。祖父からは、子音のつく言葉は語尾の母音を意識しなさいと教えていただきました。

『勧進帳』の舞台は加賀の国、安宅の関。兄の頼朝に追われる身となった義経(染五郎)。武蔵坊弁慶(幸四郎)ら家来たちは山伏に、義経は強力(ごうりき・荷物持ちのこと)に変装している。弁慶が東大寺再建のための勧進を行っていると弁じると、関守の富樫左衛門(白鸚)は勧進帳を読み上げるよう命じる。弁慶は何も書いていない巻物を勧進帳であるかのように朗々と読み上げ、窮地を切り抜ける。

 富樫は通行を許すが、部下の一人が、義経に疑いをかける。弁慶は義経の命を救うため、主君の義経を激しく金剛杖で打ち据える。主君を救いたい弁慶の痛切な思いに打たれた富樫は、関所の通過を許可する。

『勧進帳』で義経を演じる染五郎さん ©松竹株式会社 禁無断転載

──弁慶に差し出す指の先まで美しいと思いながら観ていたのですが、義経を演じられていた1ヶ月間、上手く出来なかったとずっと思っていたのですか?

染五郎 はい。あんな未熟な義経をお見せしてしまって申し訳ない、という気持ちしかなかったです。最後まで自分で納得できないまま終わってしまいました。

 毎日落ち込んでいたときに出会ったのが、欅坂46のデビュー曲の『サイレントマジョリティー』でした。歌詞がその時の自分の気持ちにぴったりと重なって……自分の義経に納得がいかなくて、正直、諦めかけて、心が折れそうになっていたとき、毎日聴いていました。「夢を見ることは時には孤独にもなるよ」という歌詞に励まされて千秋楽まで辿り着きました。欅坂46のすべての曲の歌詞に共通することですが、「自分は自分らしく生きろ。やりたいことをやればいい」というメッセージに力をもらいました。

──“推し”は平手友梨奈さんで、平手さんは、『龍虎』も観に来られたそうですね。全身全霊で踊られる姿がどこか重なります。

染五郎 自分も8月に横浜アリーナで行われた欅坂46のライブに母と行きました。半分は単純に欅坂46のファンだからという理由ですが、もう半分はパフォーマンスや演出がとても勉強になるという理由もあります。平手さんには、同じ表現者としてすごく刺激を受けています。

 京都では、『連獅子』も『勧進帳』も、これまでうまくできなかったことをすべて直して、少しでも、これまでよりもっといいものをお見せしたいと思っています。

#2に続く)

いちかわそめごろう/2005年3月生まれ。七代目市川染五郎の長男として東京都に生まれる。07年、歌舞伎座『侠客春雨傘』で初お目見え。09年に初舞台を踏み、四代目松本金太郎を襲名。18年1月、『壽 初春大歌舞伎』で八代目市川染五郎を襲名。37年ぶりの高麗屋三代同時襲名を果たした。

INFORMATION

南座発祥四百年・南座新開場記念「吉例顔見世興行」
2018年11月1日~25日
『連獅子』は「昼の部」、『勧進帳』は「夜の部」で上演される。10月15日より予約受付開始。

https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kyoto/play/560​

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